男性の不妊相談と漢方について〜むつみ薬局訪問記

今回は、静岡県内でむつごろう薬局、そして東京は銀座で漢方専門の薬局を営まれている「むつみ薬局」にて鈴木寛彦先生にインタビューさせて頂きました。

先人の知恵をふんだんに取り入れた漢方は、男女問わず、不妊に悩む方にとって嬉しい効果をもたらしてくれます。その中でも、今回は特に男性不妊と漢方の関係についてお伺いしました。

それではインタビューをどうぞ!

Q.男性の方の不妊相談は増えてきていますか?

相談に来られる方の多くは女性で、30%くらいが男性ですね。男性が来られる場合でも殆どが奥様と一緒にいらっしゃいますので、男性お一人という方は多くはいません。

今は男性専門の外来などができていて、運動率などを含めてかなり細かくデータを出されている先生が多いのですが、男性は数字を見るだけで相当落ち込みが激しく圧倒的に嫌がりますね。現実を見たくないという気持ちが強いのでしょう。

薬局長の鈴木先生です。

薬局長の鈴木先生です。

データを持ってこられた場合はまず最初に、何回検査をしたかお聞きしています。一回だけではわからない部分もありますし、男性の場合は時期によっても変わりますので、相談ではなるべくストレスがかからないように心がけています。

Q.男性不妊の場合、背景にはEDや精子数の少なさ、運動率の悪さなど明らかな症状があると思うのですが、その中で多くを占めているものがあれば教えてください。

圧倒的に多いのが、タイミングをとる回数が少ないということです。これは他の先生方も感じていることだと思います。

排卵日以外のときはどうですか?と奥さまやご主人さまにお聞きしてもタイミングをとられていないことが多いので、こちらからお話しして機会を作っていただくという感じになりますね。

そのときによく、アメリカンバイソンの話をしています。彼らは365日の中で1日しか交尾の日がないらしいのですが、競い合って本当に強いものだけがその機会をもてるので、必ず妊娠するんですよね。

今は、それとは対照的に男性の気力がなくなって、そういう気持ちになれないのかもしれません。

その理由は明らかで、忙しすぎるということに尽きます。朝7時に家を出て、帰ってくるのが夜の11時。そして仕事中も黙々とパソコンをし、コミュニケーションもとらないという生活を送っています。

このようなストレス環境下では睡眠不足にもなりますし、食事の時間も取れなかったり、取れたとしてもバラバラになっていることが多いので、次第に胃腸系が悪くなってきます。

さらに、運動もしないので足腰も弱くなっていきます。
わたしたち人間とういのは、使わない機能は段々と退化していくので、生殖系についてもタイミングをとらなければ機能は低下していきますよね。

漢方で考えるときには、“気”が大切だとお話ししています。
“気”“血”“水”が漢方においては大切な要素なのですが、そのうち、気の流れが悪くなると血液も水分も悪くなってしまいます。現代では、その大切な気がなくなってきているのでしょうね。

Q.このような症状は、生活そのものに関わる部分なので難しいところもあるかと思いますが、気を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。

一番手っ取り早いのが運動ですね。それも、柔道や空手、剣道といった勝負がかかっているような武道系を勧めています。とはいいつつも、なかなかすぐにできるものではないですし、そもそもスポーツをするような時間が取れないという方には、スポーツ観戦が効果的だと思います。

特に、プロレスやテニス、アメフトやラグビーは観ているだけで戦闘モードになりますので、そういうものを観に行ってくださいとお話ししています。

Q.不規則な食生活の中で、改善すべきところがあれば教えて下さい。

歴史上の人物で誰が一番子沢山で、年を取ってもたくさんお子さんを作っていたかというと徳川家康なんですね。75歳で亡くなった家康が、最後にお子さんを作ったのは66歳になります。あの当時でその年齢ですから、今に換算すると最後に子供ができた年齢が90歳、亡くなったのが120歳ということになります。

調剤室です。

調剤室です。

そのように年齢を重ねても元気で長生きをした、徳川家康に学ぶところは多いと考えています。

では、徳川家康は一体どのようなことをしていたのかというと、鷹狩りで足を鍛えて、麦飯で歯を鍛えて、そして秘伝の漢方を飲んでいました。

鷹狩りで足を鍛えるというのは足腰を鍛えることになるのですが、そうすると腎の働きが強くなります。腎とは生命エネルギーが蓄えられているところであり、発育や生殖機能にも影響を与える大切な部分です。この腎が弱まった状態は腎虚と呼ばれ、改善することで下半身の血流が良くなり、結果的に精子や運動率が上がっていきます。

日常生活の中で取り組んで欲しいこととして、女性にはよく縄跳びを勧めています。1日5000回、約60分ほどですね。縄跳びをすることで、子宮や卵巣も上下し、血流がよくなります。これは決して、奥さん一人で頑張るのではなく、ご主人も一緒にやってくださいということもお話ししています。

なぜなら、殆どの場合において女性は積極的ですし、一人でも頑張っています。ですが任せっきりにするのではなく、男性も一緒になって漢方を飲んだり、スポーツをすることは女性にとってプラスになるのです。

この人のためにという気持ちも芽生えますし、これだけ頑張っているのだから私も頑張ろうという相乗効果も生まれてきますので、ぜひとも一緒に縄跳びをしてもらいたいですね。

Q.男性不妊の治療にとっては、やはり夫婦が協力する姿勢が相当大事だということですね。

そうですね。仲睦まじくということですね。

男性の殆どは、不妊原因が女性側にあると思われていますが、実はかなりの割合で男性側に原因があることが多いのです。調べてみると、精子の運動率が30%以下、場合によっては10%以下ということもあります。精子の数も通常の1/3〜1/5くらいのこともありますし、晩婚化で精子の奇形率なども増えてきています。

Q.漢方で著効したケースがあれば教えて下さい。

まず、体の緊張が相当ありますので、緊張を緩める処方が主になります。これは私の持論なのですが、自律神経のコントロールが大切だと思っています。

交感神経と副交感神経、車でいうとアクセルとブレーキにあたりますが、こういうストレスフルな社会では常に交感神経が高まっている状態です。交感神経が高まっていると内臓の動きは止まっているんです。

例えば、戦国の武将が戦っている時や、空手などのスポーツで試合をやっているとき、お腹がいたくなってしまうと負けてしまうますよね。そういう興奮しているときは、内臓が動いていないのです。

逆に試合が終わったり、仕事が終わって家に帰ったときのようにほっとしたときに内臓が動き出し、明日へのエネルギーを吸収するため副交感神経が優位に立ちます。食事をしたときは眠くなりますよね。そうするとリラックスして筋肉が緩むという関係性があるんです。従って、漢方で敢えて内臓の緊張をほぐし、動かしてあげると結構効きますね。

例えば代表的な処方でいうと、建中湯類(けんちゅうとうるい)、柴胡剤(さいこざい)、それにプラスして駆瘀血剤(くおけつざい)、これらをうまく組み合わせると良い結果が出ます。

内臓が動き始めると緊張がほぐれ、食後に眠くなるような感じになりますので、そうなると消化器官が強くなり、必ず腎も強くなります。

具体的な事例を話すと、精子の運動率が10%だった方が柴胡桂枝湯を飲み始めて1ヶ月目で30%、2ヶ月目で70%近くまで上がり、3ヶ月目でうまくいったことがあります。最初は奥さまが半年くらい飲まれていたのですが、途中からご主人も飲み始め、ぐんぐんと良くなっていきましたね。

遅いと年単位かかることもありますが、性が合って漢方が効く人だと早くて1ヶ月で効果が現れます。特に、数字に変動がある方は漢方が向いていると思いますね。変動があるということは必ず良いときがあるということですので、それを安定させればいいのです。

その一方で、何をやっても数字が低い方や数字の変動がない場合は、やはり西洋の力を借りなければ難しいと思います。

ちなみに、徳川家康は味噌が大好きだったのですが、味噌を食べることで胃腸系が強くなるので、男性にはたくさん食べてくださいとお話ししています。

Q.EDに対する考え方も同じでしょうか。

ED、勃起障害は血流が悪くなることで起こりますので、やはり生殖系の血流をよくすることが大切です。

脳が興奮しないために血流が悪くなるのですが、普段から下半身の血流を良くしておくということが重要なポイントです。そのため、滋養強壮のお薬にプラスして血流を良くする漢方が必要となってきます。

店内にある看板です。

店内にある看板です。

また、脳は普段から興奮してしまっている状態、つまり仕事でずっと脳を使っていて戦闘態勢になっているので、メリハリがなくなっている状態です。そのため、どんな刺激に対しても脳が起きにくくなっているので、普段から脳の興奮のオンオフをしっかりつけてあげられるようにしてあげます。

今は家でも仕事をしているのでなおさら切り替わらないですよね。従って、敢えて消化器官を動かすことで切り替わらせてあげるようにします。

Q.漢方と高度生殖医療との併用について聞かれることも多いかと思いますが、先生はどういった説明をされていますか?
また、ホルモン剤と漢方との相互作用についてはどのようにお考えでしょうか。

併用は問題ないとお話していますし、一緒に使った方が効果は高いと思います。実際に殆どの方が併用されていますね。

ホルモン剤についても同じです。元々、人間の体にも存在しているホルモンを外部から加えることで、その量は急激に増加します。そうすると、脳がフィードバック作用を起こし、過剰な自身の力を落とそうとするのですが、それが継続すると機能自体が低下してしまうことがあります。

漢方は余ったホルモンを分解しやすくする、解毒するような働きがありますので、併用することで機能を低下させることなく、必要以上のものを分解または代謝してくれます。

会社もそうだと思うのですが、新人などが入って組織の中が変わらないと刺激が起こらないですよね。人間も同じで古いホルモンが残っていると刺激が起こらないので、それを漢方できれいにし、新しいホルモンで刺激するようにしてあげます。

Q.男性不妊に関する、漢方の費用はどのくらいかかりますか?

女性の場合と同じく、1日600円と消費税です。
この金額は、そのまま継続していきます。

Q.男性に向けて、何かメッセージがあればお願いします。

こういった不妊を相談する場所に行かなければならない、今日がタイミングの日だと言われること自体がストレスだと感じる男性の方は多いと思います。

これは奥様へ向けてのメッセージなるのですが、女性のタイミングといえば排卵ですよね。それと同じく、男性の機能がすごく高まるようなタイミングもあると思うので、それを大切にして欲しいですね。

例えば、それが排卵のタイミングから大きく外れていたとしてもです。

特に高齢の方ですと、男性のタイミングを重視して上手くいった例もありますから、男性のタイミングを重視することでうまくいくこともあると思います。

男性の方には、数字をあげるとか運動率を良くするという目的ではなく、普段のストレス改善や元気を出そうという意味で、もう少し気楽にそして積極的に漢方を試してみて欲しいですね。
例えば、銀座のほうに散歩やショッピングがてら、ちょっと寄っていただくという気持ちがいいかと思います。また、ご主人もお一人で行くよりも奥様がいたほうが来やすいと思いますし、お二人でいらしたほうが色々とお話しすることもできます。

以前、奥様と二人でいらしたご夫婦がいたのですが、奥様に気を使っている様子が見受けられたので、奥様とご主人にそれぞれ、何か気を使っていることはありますか?と聞いてみたことがあります。私が入ることによって、二人で直接言えないことでも話せる場合もありますから。

そのとき、奥様が泣いてしまわれたのですが抱えていたものは全て出し切れたのか、来店後すぐに子供ができたということもあります。

そういうこともありますので、まずは気負いせずに、そしてご夫婦で一緒にお話しに来ていただくことで、一歩前進するお手伝いができるかと思います。

<まとめ>
今回は漢方という切り口で不妊治療について学ぶことができ、西洋医学と共通するような考え方もあると感じました。両者は相反するものではなく、共存していくことでより良い効果が生まれるものなのですね。

また、女性だけではなく男性も一緒に取り組むことで治療成績だけではなく、精神的な安定も得られるという点は、実際に不妊治療の最前線で携わっていなければなかなか気付けないことだと思いました。

お忙しい中、取材を受けて頂きありがとうございました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

●関連サイト
むつみ薬局
http://www.ginzamutsumi.com
むつごろう薬局
http://www.mutsugoro.co.jp

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