不妊治療とお薬について~岡山二人クリニック院長 林伸旨先生

不妊治療お薬ナビでは生殖医療の第一人者に不妊治療のお薬についてインタビューをさせて頂くことになりました。記念すべき第一弾は岡山二人クリニック院長の林 伸旨先生にお話を伺いました。

林先生は日本の生殖医療におけるシステム作りにおいてはオピニオンリーダーとして広く知られており、多くのドクターが林先生に教えを乞う存在でもあります。今回は、その林先生に薬についてのお考えを伺う事が出来ましたので皆さんと共有をしたいと思います。

それではどうぞ!

林院長先生です!

林院長先生です!

1) 先生方にとって薬とは、どのような存在なのか?(必要性は?)

薬物作用を利用するものとして、不妊治療においては比較的結果がはっきりしています。
例えば風邪の場合、薬物投与してもどこまで薬が効いたのかわからないし、自然治癒力が大きいのではないかと考えられることもあります。

生殖医療において処方される薬は、その効果が明確であるのが特徴です。結果が見えるし、長い期間使うものでもない、そして約一か月単位だということです。よって、効果があってもなくても、はっきりと結果が見え分かりやすいと言えます。

副作用も同時に見ていますが、これもある程度想定されるものに対して、どのように推移していくのかを見ていくことが出来るし、既知のもので軽い物は適宜対処法などをお伝えしていくことになります。

2)気になる副作用はありますか?

一番、困るのは血栓症です。
女性ホルモンにしても、排卵誘発剤にしても「血栓症の可能性があります」ということが添付文書に記載があります。添付文書に書いてあるということは説明をしなければいけないということです。

もし、後で何か問題が起きた時に説明責任を果たしていないということになるので説明しておかないといけない訳です。

そして、それを伝えた時に「じゃあどうすればいいの?」と質問されることになります。これを伝えることにより逆に不安感をあおることになるのも、もどかしいところです。「確率が低いのでほっときなさい」とは言えないし、そこが医療者側としてつらい部分です。

血栓症を疑われるような症状を訴えられた場合は、「血栓症の経験がある管理できる救急病院に行ってください」というコメントになります。

我々にとってここが頭痛のタネです。

当院では、当日の診療内容と次回来院を記載した指示書を全員に持ち帰っていただくようにしていますが、血栓症注意薬を処方するときは、この指示書に血栓症の症状や救急病院の受診案内が自動的に記載されるようして、安全性の確保に努めています。

しかしながら患者さんによっても理解度も違うし、副作用に関しての感じ方も千差万別です。実際、血栓症の症状でもある「急に足が痛む」という訴えが、たまにありますが、「病院で詳しく調べてもらったけど何も問題ありませんでした」ということが殆どです。

血液凝固系に問題のある患者さんは「体外受精が受けられないのか?」というと必ずしもそういう説明にはならず、「問題がある検査結果でも血栓症が必ず起こるわけではないし、逆に、検査結果に問題なければ血栓症が起こらないわけでもない。」

その昔、多胎やOHSSの副作用が多かった時期があるが、それは今では単一胚移植になり、凍結保存も出来るようになったので、コントロールできる時代になっています。血栓症を起こしやすい卵巣過剰刺激症候群は、調節卵巣刺激を考慮して行い、全凍結し、別の周期に移植するようにしているので、ほとんど重症例は発生しないようになっています。

このように不妊治療は以前と比べ安全になっていますし、また何かあっても当院は入院施設を持っているので、柔軟に対応出来るようになっています。

当院ではデータベースシステムでアクシデント、インシデント、クレームを、職員で情報共有しており、薬についても、日々収集しミスが起こらないよう品質改善を行っています。

安心・安全な医療のために二重・三重のチェックを行える仕組みを運用しています。

受付です。

受付です。

 

3) 薬を選ぶ基準についてお話ください。

例にとると当院の体外受精の調節卵巣刺激では、女性の年齢、AMHの値、胞状卵胞数、FSHの値によって、「このように処方しようね」という診療プロトコールを決めています。

これらのデータ入力することでお勧めの処方が自動的にデータベースソフト上に出てくる仕組みになっています。それを参考にした上で医師は自分の裁量で処方を決めています。

当院では患者さんは医師を選べないようになっています。それはなぜかというと「一番良い状態で卵子を確保したい」という思いで日曜日や祝日も診療しており、このシフトを考えると医師の担当制は難しいからです。

それぞれの患者さんにとってベストなタイミングで医療提供しようと思うと担当制はマッチせず、今のようなチーム医療を行うしかありません。

よって医療チームと患者さんとの関係が大事だと考えており、そのために診療プロトコールがしっかりとしていないとダメだと考えています。診察医が変わって言っていることが違うようなことになると患者さんの不信や不安感を持たせることになるので。

プロトコールのマイナー変更は常時行っています。例えば医師部会で検討し、必要であれば変更していきます。議事録も作って回覧し、変更点を他の部署にも報告します。

プロトコール自体の書き換えは、一年に1回行っており、その内容は毎年実施される全スタッフ向けの望妊治療習熟度判定試験にも反映されます。

患者さんに説明している内容は、全員、把握し、理解し、説明できなければいけないから。

医師がオーダーする薬も医師が間違えないという保証はないので、スタッフ全員でチェックする仕組みで、間違えを未然防止できるようなシステムを作っています。

待合室です。

待合室です。

4) 新薬を選ぶ時の基準を教えてください。

新薬については先ず医師部門にその情報が入ります。そして医師部門で必要かどうかを話し合います。それで「この薬は必要だね」ということであれば採用になるのですが、置き換わるものであれば置き換えになりますし、まったく新しい物であれば追加となります。

今回、新しく出たルティナスに関しては、今まで自院で膣坐剤を作っていたので、それに置き換えて使っております。製薬企業の製品を活用することにより製造責任を負わなくて済む点は大きなメリットだと考えています。

ただ、値段が高くなったので、その点においては患者さんの負担を考え、妊娠までは今まで通りのルトラールとし、妊娠が判明した時点からはナチュアルな黄体ホルモンが良いということで、ルティナスを使っています。

新薬を使うにあたっては効果や副作用の説明だけでなく、患者さんに費用を説明することも大切であり、費用対効果も考えて選択していくことも大事だと考えております。患者さんが納得し、スタッフも納得して使えるものを常に模索しています。もし薬を変えるとしたら、スタッフ全員がきちんと説明が出来るようにしておかないといけないと思っています。

ラボ(培養室)です。

ラボ(培養室)です。

5) その他に伝えたいことがございますか?

薬とは直接関係ないけれど、このたび基礎体温を家で打ち込んでもらうとクリニックでも見られる仕組みを作りました。

月経周期も始まりの日を入れると月経周期が出るようになっています。出血や痛みなどの情報も入れられるようになっており、来院しなくてもどんどん情報を入れて基礎体温表で確認できるようになっています。

またクリニックも、この基礎体温表を確認できるようになっています。また、電子カルテと連動して確認できるようにしていますので、患者さんの入力情報と院内での診療情報が一画面で見られるようになっています。

この電子カルテ情報も含んだデータを患者さんがみれるようにすることはセキュリチィ上の問題もあるので、今は限定した診療情報のみを基礎体温表で確認できるようにしています。

他の診療領域でも使えると思いますが、生殖医療の場合は、患者さんがデバイスを使える年齢層というのがポイントになっています。「当院に来ている患者さんのほぼ100%がスマホか携帯を持っている」、このことがシステム活用のキーになっています。

<取材を終えて>

林先生の薬についてのお考えは非常にクリアで、私としてもすごく学びの深い時間になりました。効果を最大限に、安全性も最大限に確保するためにはどうすれば良いのかを考え、処方とシステムを連動させておられます。

2重3重の安全策を講じていく、そして、その上、ヒヤリハット報告でさらに安全性を確保していくという姿勢は本当に患者さんの立場として安心度の高い医療機関だと実感されると思います。

その上、経済性も出来るだけ考えていくということもされており、全方位的に納得のいく薬の使い方をされているなあと驚きの時間でした。林先生にはいつも貴重な知恵を惜しげもなくお話頂き、本当に感謝です。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 

岡山二人クリニック
http://www.futari.or.jp/

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