空の森クリニック訪問記(沖縄)~佐久本院長先生取材

今回は沖縄の空の森クリニックへ取材に参りました。以前はALBA OKINAWA CLINICという名前でしたが、今回は移転となり、改名してこのクリニックをOPENされました。その空の森クリニックの院長は沖縄生殖医療の父と言われている佐久本哲郎先生です。

日本の多くの不妊専門医から慕われている先生でもあります。今回取材でお目にかかれたのはとてもラッキーだと感じております。それでは佐久本先生のインタビューをご覧ください。

佐久本院長先生です。

佐久本院長先生です。

 

●先生はなぜドクターになろうと思われたのですか?
また、産婦人科を選ばれたのはなぜでしょうか?

僕が大学に入ったのは1966年です。実家は泡盛の造り酒屋で、兄弟姉妹が7名、内4名は男でした。本来は長男が酒屋を継ぐはずだったのですが長男が医学部に次男が工学部に四男は発酵学に進みました。僕は兄と相談して沖縄の事情を考え、チャンスがあるのであればと医学部に進みました。

その理由として、沖縄県全体の医療事情がとても悪いということがありました。例えば私が小学生のときに紫外線結膜炎になりました。その頃の眼の病気は非常に怖いというのが一般的でしたが眼科医は沖縄県で2人だけでしたので眼科の受診は大変でした。当時の医療事情は非常に逼迫した状況でした。この様な事情もあって両親も医学部に行くことを後押ししてくれました。

大阪大学に入って産婦人科医の息子さんと一緒に学生時代を過ごしました。私は小児外科志望でしたが友人が産婦人科の入局説明会に出席する時に誘われて参加しました。その時の産婦人科の倉智教授が小児外科に行くなら、まずは産婦人科で新生児を見てからとおっしゃられてそのまま産婦人科になってしまいました。

 

●佐久本先生と生殖医療を結びつけるところはどこからスタートしたのでしょうか?

大阪大学を卒業して医局に入局する時、鳥取大学内科の兄に相談したところ、兄の友達から内分泌研究の第一人者であられる青野先生がいらっしゃると言う事を聞き、青野先生の研究室に入れてもらいました。

研究室は排卵機構の解明及び排卵障害の臨床がメインテーマでした。私は三宅先生、田坂先生と一緒に神経内分泌を研究していました。1984年に琉球大学に講師として沖縄県に戻り、このような経歴であった事から当時の教授である中山教授から不妊内分泌の担当を任されるようになりました。

しかしながら当時、琉球大学を訪れる患者さんというのは卵管が悪いとか男性不妊とかでなかなか一筋縄ではいかない、排卵とはあまり関係のない患者さんが多かったですね。

ちょうどそのころ体外受精というのがトピックスになっていましたがまだ実験的な感じでありました。これもまた不思議な縁がありまして、琉球大学の東助教授がアメリカに留学しているときに当時山形大学(現、国立生育医療センター)の齋藤英和先生が同じ大学に留学しておりお知り合いでした。斎藤先生はアメリカで体外受精治療の成功例に立ち会っており、そのご縁で山形大学とのつながりが深まりました。

その後、山形大学でどんどん体外受精成功例が出てきた時に呼んでいただいて学ばせていただきました。実際に琉球大学ではじめたのが1988年でした。山形大学で大学のノウハウを教えていただき、沖縄ではスタートしてすぐに成功例が出ました。

体外受精をはじめた頃から毎年山形大学と共同研究をしておりました。ICSIは京都にブリュッセル自由大学の教授がいらっしゃっていたとき技術的なことを教えてもらいすぐに取りかかりました。

建物入口の車止めのところです。

建物入口の車止めのところです。

 

●先生の集大成であるこの環境の良い場所での開業を決意した理由をお聞かせください

ヒトは自然の治癒力を強くそなえていると思っています。昔からの生活習慣、環境をただすとうまくいく。現代社会が進み便利になればなるほど、なんとなく悪影響があるというのは聞いているけど本当にそうか?と思っていました。

しかし、生活習慣や環境を改善するとうまくいくことがわかってきました。単純にいえば冷え性の人は冷えを治すとか、あるいは食習慣を改善すると良い結果につながります。このことから現代社会においては大きな影響を与えているのはストレスに起因するものと感じておりました。

ストレスがなぜ悪いかというと、脳の方に影響して性周期を狂わせるわけです。女性においてはストレスがインパクトを与えて性周期が早くなったり遅くなったりするのは脳で起こってくる現象です。このことより落ち着いた環境の中で自分の問題に向き合っていくことが大事じゃないかと考えていました。

それで自然の中での自分の力を発揮することを活用することが一番いい形になると考えました。その結果、環境から整えようということでこの場所を選択しました。

この土地のお話があり、この広さを見たときには我々の経験では考えられないけれども、世の中にはこれをデザインしてくれる人がいるわけです。人に優しい、患者さんが心落ち着くという観点でクリニックを作りました。心落ち着く森を作るという発想から始まっています。

トータルデザインしてきたなかで、森という言葉を持ってきたときに心を無にするということを考え、「空の森クリニック」と名付けました。

クリニック受付です。

クリニック受付です。

 

●沖縄の空(そら)と空(くう)が一緒になったような感じでしょうか?

そういうことですね。心の中が無になると現実や嫌なことを全部忘れてしまいます。クリニックに来てまず建物を含めた環境や流れる音楽で落ち着いて、自分の内面と相対してというかたちですね。

 

●空の森クリニックに宿泊施設はありますか?お産はやっておられますか?

入院施設はありますが、お産はまだやってないです。現在はまだ不妊と婦人科疾患です。当院には内視鏡専門医が2名います。また、麻酔医も常勤でいますので、内視鏡手術での治療を積極的に行なっております。

 

●空の森クリニックは街から離れていると思うのですが、それでも患者さんはいらっしゃるのでしょうか?

一見離れているように見えますが、沖縄は車社会です。人口が多い那覇市からでも車だと約20分です。遠いように見えて30分以内には来られますから。また、高速を使えば、インターを降りてから5分で着きます。沖縄本島各地から来ていただけるようになったと思っております。

院内の至るところにこのようなベッドを置いて、ゆったりして頂けるようになっています。

院内の至るところにこのようなベッドを置いて、ゆったりして頂けるようになっています。

 

●沖縄は子たくさんのイメージがありますが?

合計特殊出生率は沖縄県がずっと一番です。しかしながら現在は、1.9で2.0を割っているので、人口は減ってきています。僕が来た頃の1980年頃は2.7くらいありました。

約40年間で出生率はかなり減ってきています。これは未婚と不妊が増えてきている事によると思われます。不妊の数が増えてくるというのは実は、沖縄県はメタボリックシンドロームの数も全国で一番多いんですよ。

10、20、30代の女性の肥満は全国より7〜8%くらい高いですね。肥満の場合、糖代謝がおかしくなってくる事で高インスリン血症という状態になって排卵障害とか着床障害とか初期流産とかいわゆる不妊の原因になってくるということがここ15年くらいの研究で分かってきています。

これは先ほどの生活環境の話に結びつきます。というのも、沖縄県はもともとエアコンとか車とかそういうものがない時代は炎天下で歩いて、厳しい自然影響の中で多産系だったわけですけれども、これが時代の進歩によって突如カロリーの消費が少なくなり、現在のメタボリックシンドロームの多い県になったと思います。

モータリゼーションが進んで、一方で食の方は毎日ごちそうになっていく。それが究極に沖縄の健康を阻害するという大きな因子の一つだと思います。だから余計に僕らは生活環境を非常に気にしています。

中庭には緑やオブジェがあり、見る人の心を和ませます。

中庭には緑やオブジェがあり、見る人の心を和ませます。

 

●患者さんの年代は高くなってきていますか?

高いですね。30代後半と言うところですね。僕は琉球大学時代から年齢制限をしないでやってきました。一番はじめの頃から不妊治療患者の平均年齢は38、39歳でした。

40代の患者さんもたくさんいます。今でも同じような感じですね。日本全体がそうなっていったという感じでしょうか。

 

●そうなるとどうしても生殖医療にかなり早い段階からいかないといけない患者さんも多いということでしょうか?

一回目の不妊治療でうまくいかない場合、早くその原因を突き詰めてその対応をおこなって行くことが肝要と思います。

院内にはカフェもあります。

院内にはカフェもあります。

 

●空の森クリニックではこれからどういう風に先生の考えを浸透させていきたいとお考えでしょうか?また今後やっていきたいことはありますか?

まずは患者さんとともに職員にも満足してもらえるようにしたいですね。究極は例えば完全に科学で解明して100%解決していけばいいですけれども、現時点ではそれはまだ難しい。

治療を受けたことでうまくいけば当然良いんですがうまくいかなかったときでも機会があった分だけ悔いはないと思ってもらえて、そういう治療ができたら良いと思います。あるいはそういう時間を過ごせればいいなと思います。それは職員も患者のことを、自分のこととして考える。我々の満足というのは患者さんが満足したのを見てそこに無上の喜びを感じることと考えています。

だからやっぱり相手に尽くしてそこに結果がうまくいき患者さんが満足していただいたらそれをもって我々の達成感というかそういう風に繋がっていくという感じでしょうか。

そういうときに精一杯こちらも考えて、その時を一緒に過ごすわけですけれども、その時間が無駄じゃなかったと自分の人生にとっても意味があったという時間にしたいなと思います。

我々医療をする人間というのは、尽くすことが使命だし、それが仕事になり、人生になると考えています。

ナースステーションも広くて快適な感じです。

ナースステーションも広くて快適な感じです。

 

●まとめ

佐久本先生のお話はいかがでしたでしょうか?
温厚で朴訥な語り口から患者さんやスタッフへの思いが伝わる取材となりました。多くの先生方や患者さんが慕われる理由がよくわかりました。

今回のこの空の森クリニックを取材させてもらって、驚いたのは至るところにソファーベッドがあって、ゆったりと横たわりながら読書をしたり、お昼寝をされている方が多いということです。こんなにおだやかで緩やかな時間が流れるクリニックは初めてだし、世界各国を見て回っていますが、初めてのコンセプトだと思います。

沖縄という土地の持つパワーというか、雰囲気にプラスして、このクリニックのコンセプトは不妊治療の概念を大きく変えるものです。これからも目の離せないクリニックであることは間違いないと思います。私もまた伺いたいと思っております!

空の森クリニック

http://soranomori.info/

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