(株)ウィメンズ漢方 住吉 忍先生インタビュー
今回は、漢方を取り入れた女性の体づくりをされている株式会社ウィメンズ漢方の代表取締役 住吉忍さんにお話を伺うことができました。
漢方も取り扱う薬剤師として活動されている住吉さんは、ご自身の体験を生かして不妊に悩む方や、女性特有の問題を抱えている方に寄り添った治療をされていらっしゃいます。いくつかの不妊治療専門クリニックで漢方外来も担当されており、これまで数多くの妊娠のお手伝いをされてきました。
なぜ、漢方薬剤師になったのか?そして、妊活に力を入れた経緯など様々なことを教えてくださいました。
それでは、インタビューをどうぞご覧ください。
●なぜ薬剤師になったのか?きっかけについて教えて下さい。
ちょうど私が小学校三年生のときに、母親が薬局を立ち上げました。それからずっと、地域の方の相談に乗っている姿を見てきて、高校生のときには薬剤師になりたいと考えていました。もしかしたら、薬剤師にというよりも、母のようになりたいと思ったのかもしれませんね。また、月並みなのですが、専門家として何かに携わりたいという思いもありました。
ただ、薬剤師だから薬が好きだったかというと、むしろ逆でしたね。
薬を使わずに治していく母親の姿を見ていたので、それをやっていきたいと考えていました。母親が病気をみて誰かの相談に乗ったり、お薬やサプリメントを提案したり、生活習慣を指導したのではなく、人をみて、その人に合ったことを提案していたので、それが素敵だなと感じていました。
また、いつも忙しい母親に、こっちを向いて欲しいという気持ちもあったかなと思います。
●大学では、どのようなことを専攻されていたのですか?
専攻は分析でした。なぜ分析にいったのかというと、正直、動物の解剖が苦手だったので選んだという部分があります。しかし、薬が好きというわけではなかったので、何か専攻を選ぶときに、実は、興味があってやりたいことがみつかりませんでした。
大学に入る前、高校生のころから拒食症を発症していて、大学二年生くらいまではなかなか治せず、症状が出たまま食べられない状態でした。そのため、当時、やりたいと思っていたのは心理学についてでした。
専攻では、分析で与えられた課題に向き合っていましたが、個人的には、心理学の勉強にも力を入れていました。従って、専攻を聞かれると分析ということにはなりますが、自分としては、人を治すのは薬だけではない、心理学の部分をすごく学んだと思っています。
もちろん、薬剤師という専門家としての必要な知識プラスということになりますが。
●心理学の中でも、特に興味を持たれた部分について教えて下さい。
自分が摂食障害というものを抱えていたので、認知行動療法に興味がありました。
色々な先生にもかかり、その違いなどを感じる中で、対人関係療法がすごく有効だと感じましたね。当時は、ひたすら書籍を読んでセミナーへも行きましたし、自分を分析していく中で他人への見方も色づいていきました。
私はずっと優等生のまま生きてきたので、色がなかったというか、出来ない人に対してなぜ出来ないのかという思いを抱いていました。そういった中で、触れる優しさや誰かに助けられるということを対人関係療法で学びました。
病気になって辛い4年間だったのですが、元に戻りたいと思ったことは一度もありません。戻ってしまうことはむしろ、恐怖でした。その代わり、せっかく病気になったのだから、前より良い状態になりたいということはどこかで思っていました。痩せることで自分を守っていたのですが、もし戻れるのであれば、「ありのままを好きになれる自分になりたい」と考えていました。
その経験から、妊活中のやるせない気持ちが理解できますし、いろんな形の頑張り方も感じることができます。共感というのは、自分の経験からくるものがすごく大きいと思いました。
●なぜ、漢方を学ぼうと思ったのですか?
母が、漢方を専門にしていたので、飲む薬はといえば、小さなころから漢方でした。
拒食症で何が起こるのかというと、もちろん生理は止まるのですが、体重が回復したとしてもなかなか生理は戻りませんでした。母が毎日、漢方を煎じてくれて、それでやっと何年かぶりに訪れてくれました。
高校2年生という大事な時期に、生殖能力を完全に痛めつけるようなダメージを与えたにも関わらず、回復させてくれた漢方の力をすごく信じていますし、漢方はメンタルにも優しく効いていくものです。
漢方は本当に身近にあったので、本も読もうと思えばそこにあるという環境でした。また、母は、漢方について先生が話したテープをずっと聞いていましたし、そうやって母と学べるのは楽しかったので、自然と身についていきましたね。
●なぜ、妊活に力を入れていこうと思ったのですか?
妊活は、私が不妊で悩んでいたためです。
一人目はわりとスッとできました。それこそ、漢方で再開した排卵、月経をずっと、漢方で維持していたので。
しかし、生まれてから久しぶりに私の完璧主義が再開し、誰に言われたわけでもないのに、育児とはこうあるべきだという部分が出て頑張りすぎてしまいました。
仕事ではどんどん漢方の相談を引き受けていましたので、みなさんも必死に相談に来てくれますし、出産の前日まで働いてすぐに、また仕事に戻って。でも、完璧な育児も目指していました。
そうして、今度二人目を望んだときには、月経が止まっていたのです。
痩せてしまって気づいたら月経が止まっていたという感じだったのですが、そこからは体重を戻しても月経はすぐには戻りませんでした。
まず、注射を打ってみたり排卵誘発剤を飲んでみたりしたのですが、何をしても効きません。私には卵を育てる能力はないのだと悲観し、そこでやっと、今の体で育つわけがないのだと気づきました。
冷静になってみたら、自分に対しては漢方のカウンセリング能力を全く発揮しておらず、すぐに結果が欲しいから誘発などを行い、上手くいかないために焦燥感であふれていました。
実は、そのときに一度、内服薬で排卵誘発ができ、妊娠したのですが、流産してしまいました。その子からは、今の体じゃダメだよと教わったのではないかと私は勝手に解釈をしています。
そして、やはり体を立て直さないといけないと思い、人に話していたことをやっと自分に言い聞かせることにしました。
半年間、漢方を飲んで体重を増やし、自分の体を大切にしました。そして、排卵が戻ってから1、2周期で妊娠することができたときは、やっぱり体が大事だと認識しましたね。本来の力を発揮できなければ、妊娠はできないということも痛感しました。
だから、全員ではないかもしれませんが、体なしにどれだけ良い治療をしようと思っても、耐えられないですし、子供をもつ嬉しさや妊娠できない辛さも知っているので、この経験が生かせるのであれば何でもしたいと思いました。
今考えると、以前は正直いって、ご相談の中で、きれいな言葉を並べていたのだと思います。本当の立場に立てば、どうしようもない感情や処理できない気持ちがあるのにも関わらず。だから、この経験のおかげで、相手の方が話されていることを否定することはなくなったと感じています。
●漢方薬局での相談と、クリニックの中での漢方相談の違いについて教えて下さい。
やはり、チームとして取り組むということがとても大事だなと思っています。
私は漢方も扱う薬局を経営していて、不妊治療にも携わっていますが、妊娠に関しては先端の補助医療が近道だと思っています。
それでもどうにもならないときに、チームとして治療の方針に沿った形で体づくりを行っていけるというのが最大の強みではないでしょうか。漢方薬局は右を向いていて、クリニックが左を向くような治療というのは、絶対に患者さんにとってプラスではないですよね。
そういった状況が起きる可能性は多々ありますし、クリニックの先生がしていきたい内容と漢方薬局の体づくりの方針が一致できず、意見交換がない中で進めてしまうと、歯車が合わず、結果も出にくいものです。
先生にも、私が目指して行っていることがわかっていただけるという環境、そして、先生のほうから、「この患者さんに対してここの部分が困っている」という言葉をいただけたら、そこに注力してやっていけますし、妊娠率も高めていくことができます。
だから、先生と一緒に進めていくことが患者さんのためだと思っています。
●医療機関側から期待されていることはどんなことでしょうか?
先生が行う治療にあまり反応しない方について、お時間をいただいて漢方で治療し、そこから先生の治療をもう一度やっていただくと、上手くいくという方がすごく多いですね。
みんなにやって欲しいという気持ちがないわけではないのですが、ストレートに卵が育っているときには、わざわざ介入することでもないかなと思っています。もともと、妊孕力がある方に対しては、不要といえば不要ですので希望があればという感じですね。
ただ、上手くできない方にとっては、手段の一つになって欲しいですし、先生の手段の一つにもなりたいと考えています。
メンタルのプロではないかもしれないけれど、妊活においては体への不安はつきものだと思っているので、身体に安心を感じていただけてドロップアウトを防ぐ。医療機関に通っていてうまくいかないっていうときに、途中でやめてしまうというのはすごくもったいないことなので、それを継続できるようなサポートをしていきたいですね。
●漢方外来において、患者さんからどのような訴えが多いのでしょうか?
特徴的なのはやっぱり月経不順、生理中、あとは子宮筋腫や子宮内膜症、チョコレート嚢腫などの婦人科系疾患ですね。最も多いのは、卵巣機能の低下に関して。
漢方外来に来てくださる方は正直、年齢も高めなので卵が育ちにくい、もしくは、たくさん採れても全滅ということもあります。卵の質の改善や卵巣機能の低下についてのご相談が多いですね。
●どんなケースで著効例が出やすいのでしょうか?
血流が非常に悪い方は、改善することで数が採れるようになることが多いです。
血流の悪さと採卵数に相関があるということは私自身が感じていて、体質による分類もありますが、こういう体質の人でこういう血流の分類であれば、血流を改善すると採卵数が増えるという方程式的なところは見えてきています。
また、数は採れるけど全滅という方の卵の質を変える方法については、その患者さまによって方法は変わるのですが、私自身、やり方のコツをつかむことができました。
採卵できる回数が増えていく中で、本当に質の良いものが採れればいいですよね。
卵巣の老化と言われると皆さん落ち込むのですが、それが老化ではなく、体の状態が悪いこと本来の卵巣機能を失っている状態であれば戻すことができると考えています。若返るという言葉は好きではないのですが、本来持っている力を引き出せればいいですよね。
●男性の漢方外来とかはやっているのでしょうか?
男性もお受けしています。男性だけで来られたのは2、3人ですが、ご夫婦で来られる方はとても多いですね。ただし、ご夫婦でいらっしゃると、かなりの確率で奥様が質問に答えられます。そのため、問診ではあまり読み取ることができず、女性ほど全部を引き出せているわけではありません。
しかし、男性のほうがわりとやりやすいと言うか、複雑でない状態ではありますね。その方の弱い部分、あるいは強すぎる部分をコントロールするといったベース作りを行い、精子に必要なミネラルやビタミンを送るという感じですし、ご相談に来てくださる男性の場合、女性に比べるとメンタルが関わってこないので比較的やりやすいですね。
ご相談に来てくださるくらいなので、治療にも積極的な方が多いです。
ただ、あくまでやりやすいのは、ご相談に来てくださるモチベーションを持った男性です。
現代の働き盛りの男性に対する負荷はとても大きいと感じていて、食事の内容を伺っても、通勤状況や勤務状況を伺っても、ストレスフルになりやすい方は多いと感じています。
そのため、身体をケアする時間がない、身体づくりに興味がない、治療にも不協力といった男性にも、ケースに応じたサポートもなんとか考えたいと思っています。
●妊活用のアプリ開発をされた理由はどのようなことでしょうか?
アプリの開発に声をかけてくれたのは、今、一緒に会社をやっている方です。
正直、私がお一人の相談になかなか時間が割けず、ご相談をお断りする中で、自分の体質を知りたい、生活習慣の予防を取り入れたいといったニーズもたくさんありました。自分の体質だったらどういうものを食べて、どういう生活をしたらいいのかっていうところからスタートしたい人もたくさんいます。
もちろん、そういう方も応援したいのですが、そこまで自分の時間を作れていないと感じた時に、出版についてのお話がありました。確かに、本はすごく素敵だなと思っているのですが、本棚に入ったままになってしまうなと思いまして。
みなさん、どうやって体のこと調べているのか、待合室でずっと何をしているかというと考えた時、スマホを見ているんですよね、肌身離さず。それこそ、妊活中というのは外交的になるというよりは内側に入っていくという方が多い中で、お守りになるものを作りたいという気持ちもありました。
自分の体の状態を知ることができ、的確なアドバイスをもらえるものがいつも手元にあれば、妊活を伴走するカウンセラーみたいな役割になってくれるのではないかと思いました。そうやって、日々サポートすることができればいいですね。
●これからどんなことに力を入れていこうと思っているのでしょうか?
この仕事は素晴らしいと感じていますし、すごくエネルギーをいただくことができます。
私がサポートしているつもりなのですが、いただいているエネルギーがすごく大きいので、逆に患者さまから活動のサポートをして頂いています。
私の学んだことや、経験をアプリに入れて幅広い方に身体作りの大切さを感じていただくこと、また、こういう仕事をやりたいという薬剤師さんを育てたいという気持ちが大きいですね。
それがもっと進めば、医療従事者向け、先生方の医薬品集ではないですが、こういった人には、このような処方が最適だということを示しせることを目指しています。中医学は全く違う見方が必要ですし、西洋医学のまま使ってしまうと失敗するので、弁証を行った上で、漢方の処方に役立てていただけるような開発を進めていきたいですね。
私自身もずっと発信は続けていきたいのですが、エネルギー不足になってしまうとそれができないということにも気づき始めています。そのため、少しずつ力を借りながらにはなりますが、いろんな形でこのカウンセリングを広めたいですね。
●その他、なんでも伝えたいことがあればぜひ。
妊活を頑張っている方の頑張りに、すごく、いつも胸を打たれています。医療側の人間ではあるのですが、いろんな方の可能性を見てしまいますし、その可能性と一緒に走りたいと思うので、一緒に走っていきましょう。もちろん、疲れたら休みましょう。
今の妊活の中では、頑張らない妊活や、頑張らないでという言葉があふれているのですが、私はやはり、頑張りたい人が多いのではないかと思っています。
皆さん、本当に赤ちゃんに会いたいので、ただ頑張らないでというのは、少し残酷だと感じています。でも、頑張るのであれば、自分を本当に大切にして癒してあげて、心地よくして、赤ちゃんが入る環境を万全にすることを頑張って欲しいですね。
頑張って欲しいけれど、正しく頑張って欲しい。正しさは人によって違うのだから、自分にとって本当に良いことを頑張って欲しいと感じています。
夫婦関係で悩む方も、お互いにギスギスしてしまうと何のための妊活かわからなくなってしまいます。そういった時に、優しさを出してみることで、相手も優しくなり赤ちゃんにきてもらいやすくなるのではないでしょうか。
●まとめ
住吉さんが漢方に興味を抱いた理由や、妊活に力を入れていらっしゃる背景、そしてこれからの展望などをお伺いしました。
不妊治療というと排卵誘発剤などの薬を使った治療が中心になるかと思いますが、そこに漢方の力が加わることで、より一層、妊娠しやすい身体を作ることができるのですね。
住吉先生、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
<関連サイト>
ウィメンズ漢方
https://womens-kampo.co.jp
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