なぜ抗がん剤は妊娠力を大幅に低下させるのか?
かつてとは違い、がんは時期や治療次第では打ち勝つことのできる病気、という時代になりました。発症する年齢の若年化も相まって、がん治療後の生活を思い描くことは、もはや珍しくないことです。
とはいえ、がんになったときの精神的ショックは計り知れません。疾病や治療の知識もままならないまま、その後のライフスタイルにまで考えが及ぶかといえば多くの場合、NOではないでしょうか。
そして、それは“子供を持つ”という選択肢についても同様です。
発症した年齢が高く、妊娠は考えられないというのであればまだしも、未婚、あるいは子供が欲しいと思っていた矢先にがんだと判明した、なんてこともあり得ます。
しかしながら、がん治療で多用される抗がん剤は、妊娠する力を大幅に低下させることがわかっています。
あのとき知っていれば良かった、と後悔する方が少しでも減って欲しい。
今回はそのような願いのもと、抗がん剤と妊娠力について触れていこうと思います。
●抗がん剤とは?
がん治療には外科的手術や放射線治療、そして抗がん剤を用いた薬物療法があり、それぞれの治療法を複数組み合わせて行われることも多々あります。
このうち、抗がん剤は局所的というよりも、体の広い範囲において細胞の増殖を防いだり成長を遅らせることができるので、がんの再発や転移に大きな効果を発揮します。
ですが、抗がん剤は強い効果が期待できる反面、正常な細胞も攻撃してしまうことがあり、副作用も強いのが特徴です。
起こりうる副作用は様々ですが、代表的なものとして吐き気や倦怠感、脱毛や貧血などがあげられます。また、場合によってはアナフィラキシーといったアレルギー反応が出ることもあります。
もちろん、妊娠出産に関わる生殖機能にも影響を及ぼします。
●抗がん剤が卵巣に与える影響
ご存知の通り、妊娠には卵巣や子宮の働きが欠かせませんが、抗がん剤はこれら、特に卵巣に多大な影響をもたらします。
月経不順や無排卵を引き起こすこともありますし、年齢が若いにも関わらず閉経してしまうケースだってあります。子宮がんや卵巣がんであれば、進行具合によっては切除することだってあるでしょう。
もちろん、その影響には個人差がありますし、抗がん剤を使う年齢や期間、投与量によっても変わります。
一度、抗がん剤を使い始めると生殖機能に影響を与えるばかりか、長い場合だと数年単位での治療が必要となることがあります。そのため、せっかく治療を終えたとしても、妊娠が非常に難しい年齢に達してしまったということだって考えられます。
時間は戻ってはくれません。後から後悔する前に、がんとわかった時点で妊娠を含めた今後のライフスタイルについて医師とよく相談することは大切です。
もちろん、がんの程度にもよりますが、すでにパートナーがいるのであれば受精卵、つまり胚を保存しておくということも考えられます。まだ未婚である場合などは、卵子の凍結保存も検討することができるでしょう。ただし、卵子凍結は受精卵よりも妊娠率が低いことや、実施できる施設が限られることを考慮しておく必要があります。
また、国内では認知がまだ低く研究段階ではありますが、卵巣凍結という選択肢もあります。
●抗がん剤が精巣に与える影響
抗がん剤が生殖機能に影響を与えるのは女性だけではありません。男性であっても造精機能に影響を及ぼします。
精子濃度や運動率、そして奇形精子の割合が増えることもありますし、精液中に精子がみられない、無精子症になることもあります。これらは抗がん剤を中止した後、回復することが多いようですが、中には一生涯に渡って続くこともあります。
男性の場合は、抗がん剤や放射線治療など行う前に精子を予め採取し、凍結しておくことで半永久的に精子を保存することができます。女性の採卵や卵巣凍結に比べると侵襲性が低いので、今後の人生を考え、必要であれば事前に行っておくことをお勧めします。
今は、将来子供をもつということに考えが及ばない場合もあるかもしれません。たとえ、そうであったとしても、選ぶことのできる選択肢を知っているのとそうでないのとでは、大きな違いがあります。
様々な可能性を踏まえた上で、自分らしい生き方ができるよう知識を広げておきましょう。
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