子宮内膜症〜病態と症状について

そこにあるべき組織が、実は違う場所に存在している。このことを聞いただけでも、勘のいい人は身体に不都合なことが生じ得るだろうということが想像つくかもしれません。

今回は、女性なら一度は聞いたことがある疾患“子宮内膜症”についてご紹介します。この疾患はまさに、本来は子宮にあるべき子宮内膜組織が、他の臓器に存在することで生じる弊害そのものなのです。

●子宮内膜組織とは?
わたしたちが月経、生理と呼んでいる現象は、受精卵を迎えるために子宮内で増殖した組織が不要となったために剥がれ落ち、子宮口から排出される現象を指します。

サイクルは人によっても個人差がありますが、ほぼ1ヶ月周期で起こっていると考えていいでしょう。

月経において毎月、増殖を繰り返しているのが子宮内膜組織と呼ばれる部分です。この子宮内膜組織の一部が他の臓器にできる疾患を子宮内膜症と呼んでいます。

組織はホルモンの影響を存分に受けるので、月経のたびに炎症や痛みが生じてしまうことになります。どのような場所によくできるのかというと、大半は多くの場合は子宮の表面や卵巣など骨盤内で発生しています。しかし、場合によっては大腸や膀胱、肺など骨盤内ではない箇所にできることもあります。

●子宮内膜に影響を与えているエストロゲン
ここで少し、子宮内膜症の疫学について触れておきましょう。近年、増加の一途を辿っているこの疾患は、今では10人に1人が子宮内膜症だとされています。また、この疾患は20-40代に多いことも特徴的です。

これは、どのようなことを意味しているのでしょうか。

まず考えられるのが、この年代はエストロゲンの分泌量が非常に多く、より影響を受けやすいという点です。裏を返せば、分泌量が減少する閉経後は、進行しにくいとも言えます。

もう一つの要因として、出産年齢の上昇があげられます。現代の女性は昔と比較して結婚も出産も全体的に年齢が上がっていますし、出産する子供の人数も少なくなっています。一方、初潮の時期は早まっているので、全体的に月経期間は長くなっているといえるでしょう。

そもそも、月経と女性ホルモンのエストロゲンは密接な関係にあります。エストロゲンの働きについては以前こちらで詳しく述べさせていただきました。

▶︎不妊治療とホルモン(4)〜エストロゲン
https://infertilitymed.com/不妊治療とホルモン(4)~エストロゲン/

エストロゲンが分泌している時期は子宮内膜が厚くなり、分泌が低下することで剥離を促します。つまり、月経がない期間はエストロゲンにさらされることがないので、子宮内膜組織も増殖を繰り返す必要がなくなるのです。もちろん、組織の増殖がなければ出血や痛みといった、子宮内膜症の症状を防ぐことができるようになります。

Endo-Infertility

●子宮内膜症の症状とは?
子宮内膜症は、大半は激しい月経痛を伴い、進行とともに症状も重くなっていくのが特徴的です。

また、月経の量が多くなったり、腰痛や排便痛などの痛みを伴うことも多く見られます。貧血やむくみを感じることもあるでしょう。場合によっては、月経時以外にも下腹痛が起こることもあります。

子宮内膜症の怖いところは自覚症状がないことも多いという点です。かなり症状が進行してから判明することもあるので、日頃から月経の状態などをよく観察しておくことも大切です。

●原因は?
実は、まだはっきりと判明している原因はありません。しかし、いくつかの仮説が立てられています。そのうちの有力なひとつは、本来排出されるべき血液が体外へと出ずに逆流し、卵管を通ってお腹にたまってしまうという説です。

また、腹膜がなんらかの影響で子宮内膜へ変化してしまうという説もあります。
その他、アレルギーや環境ホルモンとの関係も指摘されています。

●子宮内膜症にはどのような種類があるの?
子宮内膜症はその発症部位や大きさなどにより、いくつかの種類に分類することができます。

・腹膜子宮内膜症
子宮内膜症の中でも、基本的といってもいい病変です。
小さな子宮内膜組織が臓器や腹膜の表面に散らばっていて、癒着も起こしやすいとされています。強い痛みを伴う病変とそうでない病変があり、前者のほうは非常に活動的だといえます。

・卵巣チョコレートのう腫
非常に多い病態です。卵巣内に子宮内膜症が発生し、袋状の病変となって血液が蓄積されていくことで発症します。

卵巣内にできるため、子宮内膜症の増殖に伴って卵巣全体も大きくなっていくのが特徴です。袋が小さくても破裂することがあり、そのような場合は非常に強い痛みを伴います。

・深部子宮内膜症
腹膜子宮内膜症が表面にできるのに対し、こちらはそれよりもっと中に子宮内膜症が発生します。部位としてはダグラス窩にできていることが多く、強い痛みを感じます。非常に発見しにくい上、手術も難しいものになります。

そのほか、これ以外の臓器にできることもあります。肺に発生した場合は喀血し、横隔膜などにできた場合は気胸を起こし、いずれも月経と連動していることが特徴です。

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