不妊治療とお薬について~みむろウイメンズクリニック院長 三室卓久先生
今回は東京町田市のみむろウイメンズクリニック院長、三室卓久先生に「不妊治療とお薬について」お話を伺いました。町田市は東京都の多摩地域に位置する市で、人口40万人を超えるベッドタウンです。みむろウイメンズクリニックはJR横浜線と小田急線の両方の駅に近いので多摩地区だけではなく、八王子や神奈川県全域からも患者さんが集まる人気のクリニックです。
それではインタビュー内容をどうぞ!
1) 不妊治療においての薬剤とは?(排卵誘発を中心に)
患者さんにとって薬が必要かどうかの見極めをすること、そしてその目的を明確にすることが大事なことであり、薬は必要ですが最小限の活用になります。
さらに体外受精を行う時と一般不妊治療を行う時とで目的と内容は変わってきます。
それをちゃんと区別しないといけないです。
人間は本来、1個の卵子だけ排卵するので、一般不妊治療の場合は良質な1個の卵子を作り出すことを目的としますし、しかしながら体外受精などの高度生殖医療の場合は、より多くの卵子を得る必要があるので、これらの薬の使い方は異なります。よって、きちんと区別しないといけないのです。
1個の卵子を作り出すような場合、それをターゲットにしながら、副作用も出来るだけ最小限にするよう注意をします。
クロミッドを例にとると、クロミッドの抗エストロゲン作用により、内膜が薄くなり、子宮頸管粘液への影響などがありますが、それに対処できるような配慮が必要です。
よって、そのようなことを考えていくと薬を使う頻度、量、何周期やるのかを検討します。
不妊治療で最も安易に使われているクロミッドですが、その副作用についてはとても気になることがあります。
クロミッドは抗エストロゲン作用により、ネガティブフィードバックにより内因性のFHS(卵胞ホルモン)を増やす目的で使われるわけですが、それを漫然と何回も使うと高FSH状態と抗エストロゲン状態を頻回に起こすことになります。その結果子宮内膜が薄くなり、卵子の質を下げることにも結びついてきます。
また、クロミッド+HMG-HCGという処方をする先生も意外と多いのですが、この場合は卵胞が複数発育する頻度がまし、多胎妊娠が増えてしまうことに結びつきます。
日本産婦人科学会のデータを見ると体外受精の多胎率は単一胚移植が定着してからは増えておらず、逆に一般排卵誘発での多胎妊娠が多いというデータが出ていました。
ということは一般婦人科診療の中で安易なクロミッド使用により、多胎妊娠が発生しているということが推測されます。
ここが大きな問題だと感じています。
よって、妊娠、出産を目的として治療をするのであれば、薬の使い方をシビアに考えておかないと副作用が優位に出てしまうことがあるので、注意が必要だということです。
一方、体外受精の場合は採卵を目的としていますので、卵子を取り出せば一旦、治療をストップすることが可能です。良い卵を取るために薬をしっかりと使い、卵巣刺激を行うことが患者さんのメリットに結びつく訳です。
2) 黄体補充について
黄体ホルモンの新薬が出てきて、今、ちょっとした話題になっていますが、私は一般不妊治療における黄体補充についての意味にはいろいろな側面があると思われます。
本当に常時、黄体機能だけが悪い人っているのか?
そんな疑問を持っています。
なぜなら卵胞が黄体に変化するのですから、毎回形成される黄体は異なるものなのです。例えば甲状腺機能不全は甲状腺の異常により発症しますが、黄体に関しては先月の黄体、今月の黄体、来月の黄体は全部違う黄体です。
なのに、その機能だけがずっと落ちている人っているのだろうか?
卵胞発育が悪かったという場合、当然黄体昨日も低下していると想像できますが、それは黄体から分泌される黄体ホルモンだけが低いのではなく、卵胞発育の結果低値になっていると思われます。
さらに近年、十分な黄体ホルモンが次周期の卵胞発育に影響するとの報告もあり、次周期の良好卵胞の発育のために、時として十分な黄体ホルモンが必要な場合もあります。その結果、次周期でのクロミッドなどの必要量も減少する可能性もあります。よって、良好な卵胞を育てることがその後の黄体機能に影響すると考えられます。
要するに一般不妊治療において、黄体補充とは単に黄体機能が悪いから補充し、排卵された卵子のみへの影響を期待するのではなく、前後の周期をよく分析し、次周期も含めた卵胞発育を考慮して、その必要性の検討をすることが好ましいと思われます。
その結果、自然と内膜の状態も好転し妊娠するのだと思います。
実際に妊娠した人を調べてみるとやはりその周期やその前周期の黄体ホルモン値は高いのですが、それは良好な卵胞が発育し、良好な卵子が排卵された結果、黄体形成もうまくいき、妊娠に結びついたのかなと思うわけです
しかし体外受精に関してはまったく違う話になります。
新鮮胚移植周期では、採卵することにより卵周囲の顆粒膜・莢膜細胞が卵子と共に取り出してしまう結果、黄体形成が不十分になるので、外からの補充が大事になります。
また最近ではホルモンで内膜コントロールした周期での凍結胚の移植が多く行われるようになってきました。
そういう意味では今回の新薬の適応症は体外受精・胚移植時の黄体ホルモン補充にとなっているのはそういうことですね。
しかし、その黄体ホルモンがどのタイミングまで、どれくらいの量必要なのかということのエビデンスはまだ出ていないのでよくわかっていないのが現状です。
3) 不妊治療ではオーダーメイド医療で薬剤使用も細かく工夫をすることが多いと思うのですが、どこでそれを学ばれるのでしょうか?
学会や研究会で学ぶことも多いのですが、日々の診療の中で患者さんから教えてもらうことも多いです。患者さんの年齢、卵巣予備能などの検査値、妊娠既往の有無などから分かることがたくさんあるからです。
最近の日本の生殖医療は年齢因子という大きな因子があるので、それを乗り越えて妊娠してもらうためには日々の工夫を積み重ねていくしか、妊娠率を上げる道はありません。
4) 薬の副作用で気になることを教えて頂けますか?
先ほどもお話ししましたが、クロミフェンは意外と副作用が多いということです。
霧視になる方も結構おられます。
なぜなるのか分からないですけど、下垂体の機能亢進状態を作り出すのでその影響かもしれません。
他の経口排卵誘発剤、フェマーラやセキソビッドでは起きないので、何か原因があるのでしょうね。
5) 新薬を選ぶ基準について教えてください。
新薬は出たら使ってみたいとは思いますが、今、使っている薬と比べて、どれだけメリットがあるかということでしょうね。それは医療者側にもそうだし、患者さん側にもメリットがないといけないということです。
以前、遺伝子組み換え型のFSH製剤は盛り上がりましたが、今では費用や効果などで下火になっていますよね。HMG製剤が再評価されている状況を見るとやはりメリット、デメリットを冷静に見て使うというのが答えになるのかなと思います。
6) 製薬企業MRや医療機器メーカー担当者に望むこと
情報は欲しいけど、実際は我々の方が情報を持っているのが今の状態だと思います。そうなると学術情報という部分においてはなかなか期待に応えられる方は少なくなった気がします。
学会自体も以前は薬についての演題が結構、ありましたが、今はそういうのも少なくなってきているので、その情報もないですね。
海外情報を頂けると嬉しいですが、そこまで勉強している人もいないのが現状と言えます。
グローバルな視点で情報提供を期待しています。
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