体外受精(顕微授精)における卵巣刺激法について
前回はGnRHアゴニスト及びGnRHアンタゴニストについて書きましたが、今回はそれらを用いた卵巣刺激法について解説してまいります。体外受精(顕微受精)の時には卵巣刺激を行い、出来るだけ複数の卵子を採卵出来ることを目的とします。
現在、卵巣刺激法にはいくつか種類がありますが、ここではGnRHアゴニストを用いたショート法とロング法、そしてGnRHアンタゴニストを使用するアンタゴニスト法を取り上げます。
<GnRHアゴニストを用いる方法>
◆ ショート法
1.採卵する予定の月経周期初日からGnRHアゴニスト(点鼻薬)を投与し始め、hCG製剤(排卵誘発剤)を投与するまで続けます。
2.GnRHアゴニストを投与した翌日から、hMG(排卵促進剤)の注射剤を毎日、連続投与して卵胞の大きさを見ていきます。
3.卵胞が成熟したら、採卵36時間前にhCG製剤を投与して、排卵を促し採卵します。
GnRHアゴニストを使用すると、投与初期にはゴナドトロピン(LH,FSH)が大量に分泌する“フレアーアップ現象”が起こります。ショート法は、この現象を利用して卵胞を短時間で成熟させる方法です。
メリット
・ hMG製剤の使用量が少なくて済む
・ 大量のゴナドトロピン分泌が期待出来る
デメリット
・ hMG製剤に対する反応が悪くなることがある
・ 卵子の質にばらつきが見られる
・ 排卵をコントロールしにくい
・ 下垂体の機能回復まで時間がかかる
◆ ロング法
1.採卵する月経開始予定日の1週間ほど前からGnRHアゴニスト(点鼻薬)を投与し始め、hCG製剤を投与するまで続けます。
2.月経開始3日目頃からhMG製剤の注射を投与し始め、卵胞を成熟させます。この注射はほぼ毎日行い、卵胞の大きさを見ていきます。
3.採卵36時間前にhCG製剤を注射して排卵を誘発し、採卵します。
GnRH製剤を投与した当初はフレアーアップ現象がおきますが、長期に渡って刺激を続けるとGnRH受容体が“ダウンレギュレーション”を起こし、GnRHを感知できなくなります。これにより、ゴナドトロピンの分泌が止まって卵巣への刺激がない状態となります。
そのため、卵巣への刺激は外的要因のみになるので、投与するhMG製剤でのコントロールが容易になります。
* ダウンレギュレーション
大量にある特定の物質が放出されたために、その物質に対する受容体(レセプター)が減少し、感受性も低下することを指します。
メリット
・ スケジュール調整が可能
・ 排卵誘発のコントロールが容易
・ 下垂体からのLHサージが抑制されて、早発排卵が防止される
デメリット
・ hMG製剤の使用量が増加する
・ 排卵の直前まで注射をする必要があり、通院期間が長くなる
・ 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性が高い
・ 下垂体の機能回復まで時間がかかる
◆ アンタゴニスト法
1.月経開始3日目頃にhMG製剤の注射を開始し、hCG製剤を投与するまで続けます。
2.卵胞が14mm程度まで成長したところで、GnRHアンタゴニスト製剤の注射も投与を開始します。
3.採卵36時間前に、卵子の成熟を促進する注射(hCG)をした後に採卵します。
メカニズムはロング法と同様ですが、点鼻薬に替えてGnRHアンタゴニスト製剤の注射を打つことでLHサージを抑えます。
メリット
・ 点鼻薬のように、頻回投与の必要がない
(点鼻薬は1日3回の噴霧が必要)
・ ロング法よりも質の良い採卵が期待出来る
・ OHSSを起こしにくい
デメリット
・ GnRHアンタゴニスト投与のタイミングが難しく、遅いと採卵前に排卵してしまう可能性がある
・ 注射の回数が多くなる
・ 製剤自体が高額なので、トータルでコストがかかる可能性がある
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。