矢内原ウィメンズクリニック 矢内原敦院長先生インタビュー
今回は、神奈川県鎌倉市大船で開院されていらっしゃる、矢内原ウィメンズクリニックの矢内原 敦院長先生にインタビューさせていただきました。
こちらのクリニックは、JR大船駅から徒歩一分という好立地でありながら、患者さんに合った検査や治療をしていただけるので、余分な時間や検査を受けることなく不妊治療に専念することができます。
また、男性不妊や妊娠後の産院等との連携体制もしっかりとされており、まさに妊娠からお産までトータルで診療が受けられる安心感を患者さんにもたらしてくれます。
それでは、矢内原先生のインタビューをどうぞ!
●ドクターになられたきっかけ、また産婦人科を選ばれたきっかけを教えてください。
私は産婦人科医としては三代目になりまして、祖父も父も産婦人科医でした。そのため、本音をいえば半分くらいは、その世界しか知りませんでした。もちろん強制はされませんでしたが、他の職業というものをあまり知らなかったということもありますね。結果的には、医師になれて良かったと感じています。
それは、職業としてやはり興味が持てますし、特に、産婦人科は女性だけになりますが、学問的には生まれてからトータル的に診ることができるということもきっかけのひとつです。また、内科や外科といったカテゴリーがないことも大きいですね。
●大学入学後、他科をまわったときに心が揺らいだことはなかったのでしょうか?
学問的には、精神科が面白いと思いました。カテコールアミンなどの物質や電気刺激で、思考や行動が変わるということは衝撃的でしたね。人間の精神や思考過程、興味なども含めて、それを科学化することにとても関心を抱いたことは事実です。
ですが、どこの診療科をまわっても、私は産婦人科を選ぶだろうと思われていたので、しっかりとした勧誘は受けていないのが現実です。父が、すでに産婦人科の教授として教鞭をふるっていたので、自分の置かれた環境が普通の方と少し違うことは感じていましたし、最初は色眼鏡もあったのではないでしょうか。
ところが、父と私は全く違う人格ですので、半年も経たないうちにそれもなくなったような気がします。やはり、父と同じ医局に入ることができてよかったのかなと思っています。
●大船という立地を選ばれた理由を教えてください。
私自身が鎌倉生まれだということもありましたし、祖父も鎌倉で開業していました。大船というのは、鎌倉の一部だと思っていらっしゃらない方もたくさんいるのですが、一応、鎌倉市というものにこだわりは持ったつもりです。
この辺りは、交通網が充実していますよね。バスや電車など、いろいろな路線がありますし、すぐ近くに横浜市との境がありますので、患者さんの足である交通を考えた時に、良い立地であるということは理由のひとつですね。
●治療上でのこだわりがあれば、教えてください。
結果を求めていることは、事実です。それは大切なことなのですが、やはりカップルごとに、ニーズや夫婦間の温度差など事情が異なりますので、それらを平行化させていくことが必要ですよね。
なるべく余計な検査はしたくないですし、また、行わないようにもしています。自費の検査も含めて全部やってしまえば楽なのかもしれませんが、理由があるから検査をし、それに対しての治療を提案するということが我々の役目だと思っています。
低侵襲という表現が正しいかどうかはわからないのですが、余計な負担、余計な治療、余計な検査は極力しないような努力をしています。もし、自分が患者であれば、そうしてもらった方が良いのかなと感じますしね。
●医学的なアプローチだけではなく、エクササイズや漢方のような東洋医学も取り入れていらっしゃいますよね。
不妊では、治療をやめた途端に自然妊娠するということがよくあります。
これは何を示しているのかというと、来院している段階で、患者さんへかかる精神的な負担などが影響しているのだろうと思っています。どの先生方も感じていることでしょうし、患者さん自体の考え方や体調を変化させるひとつのトリガーになっているわけですよね。
実は、3年前にお産をする病院をつくり、その4割ほどの方が不妊治療後の妊娠です。
言葉が適切かどうかわからないのですが、年齢のことを除外しても、点滴や鉗子分娩、帝王切開など医療介入するお産が多いという印象を受けていました。そこで、患者さんを紐解いてバックグラウンドをみていたところ、医療介入するのは不妊治療していた方が多く、その事実を学会発表や論文にも投稿させていただいています。今年に入ってから、そういった内容の論文も世界的に多く発表されているという印象もあります。
産科に絡む話になりますが、お産後の出血、分娩後の出血というのはある程度ありますが、時に、大出血することがあります。これは、体外受精を含めた不妊患者さんに多いといわれています。その原因はわかっていないと結論づけられているのですが、私はそれを一言で、筋力、体力と結びつけています。
物事が便利になってしまったために、私たちの肉体は実年齢より年を取っています。それが不妊の若齢化、20代であっても不妊に悩んでいらっしゃる方が多い要因のひとつになっているのではないかと推測をしています。
体の中が元気でいるためには、いわゆる筋力が絶対的に必要です。
昔から、高齢になると難産になると言われているのは、筋力が低下するからなわけですよね。筋肉が硬くて産道も開かないし、生みだすための筋力もない。だからこそ、医療介入も増えてしまいます。
自然妊娠された方と比べると、3倍から4倍、医療介入が増えるのです。産科出血についても自然妊娠より多いですし、こういったことは全世界的にも言われています。
●そうなると、帝王切開の数も増えていくのでしょうか?
当院のお産に関していうと、診ていただいている先生たちのおかげで帝王切開になりそうな症例であっても、普通分娩できることが多いですね。帝王切開になると不妊の原因にもなりますので、なるべく下からお産できるものは、下から産むということを病院のスタンスにしています。
私たちの体は、どうしても楽な方向にいってしまいます。
昔は、生きるために米を育て、背中にお子さんを背負いながらでも田植えをしていた農耕民族であり、生活の中で体が鍛えられていました。
ところが、ここ2,30年でコンピューターの時代に突入し、外出することも少なくなりました。ウォーキングも良いと言われていますが、それも出来ない現状から、せめてウォーキングをしてみよう、ということです。決して十分というわけではありません。
筋肉が少なく、血行が悪いために機能も低下していて不妊になっている。そこをバイパスするような形で妊娠したとしても、結局難産になってしまいます。
そのため、妊娠する前からいいお産、お母さんも赤ちゃんも元気でいるために、どのような提案できるかというところが肝心ですよね。
●こういった考え方は、産科をもたない不妊施設では、あまりない発想かもしれませんね。
そこが一番、日本の不妊施設の考えなくてはいけないところだと思います。
例えば、産科施設がないところで得られる情報というのは、産婦人科学会の統計くらいですが、産科も一緒にされているクリニックでは、先生方も様々なことを感じられていると思います。
お金をかけなくてもできることはありますが、どうやったらいいのかわからないというところはありますよね。別件になりますが、子育てもそうだと思います。
昔は、おばあちゃんがいて学ぶことができましたが、今は核家族化してしまっているので、本来伝わっていく部分が伝わっていないですよね。それを牽引していくのが医療機関だったりするわけです。
お産は昔からずっと行われている原始的なことですので、産科自体は生殖医療と違って発展という意味合いはあまりないかもしれません。将来的には体外で人工子宮、という時代がくるかもしれませんが、現状としては人が人を生んでいく、その中で努力して出来ることがあるのではないか、ということ知っていただきたいですね。
●やはり、運動と食についても指導されているのでしょうか?
そうですね。食べ物というのは、手が出やすいところの一つだと思います。
ただ、漢方や食事といった東洋医学だけで、何か体の状態が変わるというふうには思っていません。
血行が悪い方に漢方や食事を改善したとしても、体を巡るのかという問題があり、エクササイズなども一緒にやるべきだと考えています。それだけになってしまうことが一番問題なので、指導の中でも偏らずに一緒にやらなければならないよね、という話をさせていただいています。
●リサーチユニットの意図を教えていただけますでしょうか。
スタッフにも同じ話をしているのですが、果たして教科書で行っていることが本当に正しいかどうかということがあります。ただ、インプットされてしまうと、そういうものだと思ってしまいますよね。これは医療についても同じです。
尺度を色々変えて見直さなくてはいけない部分や、場合によっては教科書自体が違うものが実は、多々あるのではないでしょうか。ある程度、基礎的な研究から見直さなくてはいけないということもありますので、そういった意味でリサーチユニットを立ち上げています。
さらに、データだけがあっても、発表や論文といったアカデミックなところに持っていかない限りは、何にもならないのではないかとも感じています。ですので、みんな仕事が忙しい中、なるべく論文や発表はしていこう、仕事のひとつとしてやっていこうと取り組んでいます。
発表すると意外なところから、意外なアイディアが生まれたりすることがあります。現実的に、英語の論文を書いていると、日本の現状や文化の違い、宗教の違いを感じることがあります。指摘もされていますが、日本は採卵数が多い割に妊娠率が上がっていません。それには理由が明確にあるのですが、そういった実情に関しても、海外からみると疑問がわいてきますよね。
●地域連携にも積極的で、患者さんのメリットを最大化させようというお考えを感じますがいかがでしょうか。
実は、小児科と保育所をつくり、全部を連携させようと考えています。
小児科に関しては、お産も行っているので、赤ちゃんに何かあったときにすぐ診てもらえる環境を作りたいということがありました。保育所については、すでにやられている施設もたくさんあると思うのですが、二人目を望まれる不妊患者さんのお子さんを一時的にお預かりし、クリニックに来ていただけるというメリットがあります。
また、当院のスタッフがお子さんを預けたい、熱があっても病児保育があればスタッフが急に帰る必要がなくなるという利点もあります。
また、データ的にも、これまで追えなかった部分も追えるようになるのではないでしょうか。
みなさん、生まれたときまでのデータまでしか持っていないところが大部分だと思いますが、引っ越しして地域が変わらなければ、追える部分はあるのかもしれないですよね。知り得るところのエンドポイントまで追うことができれば、大きな社会的なデータのひとつになるのかなと感じています。
本当は、総合病院のように全部がそろっているのが理想ですが、小さいところだと難しいですし、そもそも不妊と産科違う施設で診るものだと思っているので、その間くらいに小児科と保育所があればいいと考えています。
ですが、なかなか壁も高く、前に進んでいないのが事実ですが、近い将来実現したい夢のひとつですね。
●薬剤の選択や新薬採用の基準を教えてください。
新薬採用については、おそらく待つでしょうね。
自分の施設だけの“母集団”では対応できないという考えがあり、まさにここはアメリカ的ではなく日本人的な考え方ですよね。
例えば、新車が出てもすぐ買わないですし、マイナーチェンジしたときが採用するタイミングだと思っています。
私が飲んで何か感じられるものがあれば別なのですが、仮にそれがあったとしても、絶対的な数をやってみなければ何が起こるかわからないということがあるので、ひとつの会社のデータだけではなく、世の中に出てからのデータを考える基準にします。
●気になる副作用はありますか?
イエスノーで答えるのであれば、ノーですね。
今の状態で薬が大きく変わっていることはないですし、副作用についてもわかりきっているので、注意すべき点というのはまさに教科書通りなのかなと思います。なので、気になる副作用という意味ではありません。
ただ、その人特有のものはあります。同じ作用のあるAとBという薬であっても、Aは大丈夫でBがダメという方もいらっしゃいますので、そのような場合には個別に対応するということは当然行っています。
トータル的な副作用という意味では、現状使っているものに関してはないですし、少なくともお産までの間で何か起きている、という実感はないですね。
●クリニックの将来的なビジョンについて教えてください。
本来であれば、将来的なビジョンは持たなくてはいけないと思うのですが、これから不妊治療という考え方そのものが大きく変わっていくのではないかなと感じています。選択肢も広がると思いますし、変えなくてはいけない倫理観などもありますよね。
着床前診断は不妊の領域だと思うのですが、例えば、iPS細胞も含めて臓器を作ってしまうといった、足りないものを初期の段階で操作して変えていくということが理論上は可能なわけです。
それを不妊治療と言っていいのかわからないのですが、取り入れられるものかどうかということをある程度線引きしながら、技術的にできることは取り入れていきますし、考えなくてはいけないものは情報発信していかなくてはいけないですよね。
再生医療などを含め、大きなクリニックなどでは間違いなく取り組まれると思いますので、それらの結果などをきちんと消化、咀嚼して取り入れるかどうか見極めていかなくてはいけないとも思っています。
●患者さんや、読者に伝えたいことがあればお願いします。
先ほどの話とも重複しますが、エンドポイントはお子さんもお母さんも元気でいることです。そのためには、妊娠する前からできることがあること、それを考えてみませんか?というのがひとつのメッセージになります。
エクササイズなどは、その人によって違っていたりするので、必ずしもラインに乗っかっている方法がベストではない可能性があります。それは論文などでも言われており、どういう運動が最適かどうかということは、その人次第です。
従って、運動をすればいいということではなく、妊娠に必要な筋肉、「妊筋」とでもいいますか、分娩に必要な筋肉を育むことが大切です。こういった話をすると、みなさん日頃動いていないことを認識されているので納得してくださります。
産婦人科としては、そのようなことを非常に感じる今日この頃ですね。
●まとめ
矢内原先生には、アカデミックな視点から、長い時間に渡りお話しを伺うことができました。
不妊施設だけではなく産科もあるからこそ得られる豊富なデータ、そして、それらをまた不妊患者さんに還元していくということをしっかりとされていらっしゃいます。また、通われる患者さんにとっては、不要な検査を強いられるわけではなく、その人に合った検査や治療をしていただけるという点も非常に魅力的だと感じました。
矢内原先生、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
●関連サイト
矢内原ウィメンズクリニック
矢内原医院
http://www.yanaihara.com/index.php
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