横須賀市 吉田市長&森田課長取材記
今回は、不妊治療も含めた妊娠出産、子育てに関わる取り組みを積極的に行っている横須賀市の吉田雄人市長とこども育成部こども健康課の森田課長にお話を伺いました。
今年度より新たに始まったハッピーマイプラン事業や男性への不妊治療費用の助成拡大についての詳細や、子育て世代にとって魅力的なところについても教えていただきました。
いつもとは違った切り口でお届けする今回は一体どのような内容が飛び出すのでしょうか。
それでは、インタビューをどうぞ。
●不妊助成について、横須賀市独自の制度があれば教えて下さい。
男性不妊治療を行った場合、国の施策では1回の治療で15万円までの助成となっていますが、残り15万円を市独自で上乗せし、助成金額を30万円としています。
このように男性不妊治療に力を入れているのは、不妊の原因の約40%が男性側にもあるといわれている中で、どちらに責任があるというわけではなく良好な夫婦関係で、妊活に取り組んでいただきたいということが一番の狙いですね。
●市としては財源を確保するのが難しいのではないでしょうか。
治療の効果が男性の場合は見えにくいという点は、予算を考える上でハードルになりました。また、保険適用されていないという部分も議論になりましたね。
しかし、横須賀市ではニーズが多様化している中で、子育ても含めて“ゆりかごから墓場まで”サービスの幅を広げていこうという話をしていまして、福祉についても広い門構えでなくてはいけないのではないかと考えています。
その、ゆりかごの部分について、お子さんを必ず産まなくてはいけないというプレッシャーをかけるのではなく、子供が欲しいという方に行政としてもチャンスをしっかりと提供していかなくてはいけないですよね。
●市としては、何かきっかけがあってそのような事業に取り組もうと思われたのですか?
妊活全体については、市議会議員の方から前向きなご質問をいただいたというのがひとつですね。
また、厚生労働省の特定不妊治療費助成の拡充もひとつのきっかけになっています。これについては、非常に前向きな取り組みだなと評価をしていますが、やはり本来は保険適用するべき内容だとも感じています。
●このような制度ができて、市民の方の反応はどうでしょうか?
上乗せを市独自で助成する報道が出た時に、よくやってくれたというお電話もいただきましたし制度の詳しい問い合わせもありましたが、いま現在、申請されたのは一件だけですね。
ただ、やはり男性の不妊治療も1回に30万~40万円くらいかかるということで、そこを15万円の助成ではなくて30万丸々みてくれるというのは本当にありがたいというお話もいただいています。
男性の不妊治療のときには、体外受精することになりますので女性も一緒に治療するため、両方の治療費を合わせると100万円くらいかかってしまいますから。
●不育症についての取り組みはどうですか?
不育症についてはもう5年前から市独自で始めていましたので、今年度からは治療費だけでなく検査費もお出ししようという、いわゆる新規ではなく拡充での予算化となっています。
不育症は基本、病気になりますよね。
2回以上、流産するとほぼ不育症と診断を受けるようになっていると思うのですが、治療を受ければ約85%が出産に至ることができるということで、やはりそちらへの助成も必要だろうということで始めました。
不育症についての財源の話になりますが、助成を始めたときから“いのちの基金”というものを立ち上げていて、不育症という病気があることを知ってもらうと同時に、広く市民の方からの寄付を募っています。
そして、寄付してくださった金額と同じ額を、市からの積立金の中から支出して上乗せし、善意を二倍にして届けるという形をとっています。
いのちの基金は不育症治療費に関する助成のほか、産科の医師を確保するための助成金と、看護師の離職防止などの研修に対する財源の3つに対しても使われています。今年度からはそれに、男性不妊治療も加わっています。
非常にありがたいことに、寄付金は毎年、500万円弱くらい集まっています。
これまで寄付については、奉仕団体が社会福祉協議会に対して行っていたり、福祉に使って欲しいと市に対していただくことがありましたが、使途が明確ではなかったという経緯があります。
しかし、横須賀市ではふるさと納税などが始まる以前に、いのちの基金での使い道をはっきりさせ、寄付してくださった方に毎年報告書を送り、基金の運用状況もお知らせすることを前提として寄付を募っています。
目的がはっきりしているので寄付しやすいですし、実際にリピーターの方もいらっしゃいます。
不育症の助成および、いのちの基金の詳細については、こちらをご覧ください。
*不育症治療費助成事業
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3440/huikusyou/sinnseisyosiki.html
*いのちの基金
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3120/inochinokikin/index.html
●横須賀には産婦人科はありますが、不妊治療専門でされているところがないので、助成金申請に関わるような症例に結びついていないところがあると思うのですが、そのあたりはどうお考えでしょうか。
そうですね。不妊治療については何年か前に医療機関や医師会と話し合いをしたことがありますが、設備的に難しいところもありまして。
そのため、現在は一般不妊治療を市内の医療機関で行い、そこから紹介するという形をとっています。そして、専門病院を無事に卒業ということになりましたら、こちらの医療機関に戻っていただくということで連携は取れていると思います。
しかし、不育症の治療は定期的な注射が必要など通院する機会が多いので、利便性を考えると市内にひとつでもクリニックがあればいいなとは思っています。
●市長の立場からすると、不妊治療だけではなく少子化など全て包括して考えなくてはいけない立場だと思うのですが、育児、母と子の福祉の部分についてはどのようにお考えでしょうか。
特徴的な取り組みとしては、サポートの切れ目のなさを大切にしています。
今年度からハッピーマイプラン事業を始め、いわゆる妊活の支援を行う相談窓口を作っています。
ちなみに、昨年からは産後ケア事業を始めており、特に横須賀市ではナイトケアを単独でやっているというのが特徴的な取り組みになりますね。やはり、お母さんは夜寝られずに疲れ果ててしまうこともあるので、夜だけでも少し面倒をみていてもらうと本当に楽だという声を聞きます。
他の自治体でも産後ケアを始めているところはありますが、ある程度の手続きを踏んでから申し込む必要があるのに対し、横須賀市の場合は緊急時やお母さんが大変な場合であれば、退院したその足で来てもらってもいいというくらい臨機応変に対応しています。
そのため、この産後ケアを受けたことで産後うつを予防できたり、育児不安を早いうちに解消できたというケースは多くありますね。
また、こんにちは赤ちゃん訪問という新生児訪問については、横須賀市ではほぼ100%訪問出来ているということは大きいですね。これは、助産師や保健師のみなさんの協力があってこそできていることです。
このような事業は現場の声から生まれてきています。
妊娠前から出産・子育てに至るまでの過程もしっかりフォローしていこうと思っています。
また、横須賀市は中核市での児童相談所の設置市なので、いろいろな行政との接点の中で虐待の早期発見などもでき、かつ児相にもつなげられるということも強みになっていますね。
*産後ケア事業の詳細については、こちらをご覧ください。
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3440/20151001sangocare.html
●横須賀市の魅力を医療や保健の切り口から、教えていただけないでしょうか。
切れ目のなさや漏れのなさはすごく大事だなというのがひとつと、中核市で児童相談所をもっているというのはプラスだと感じています。
最後の砦がある中で、市職員が同じ目線で児童相談所にいたり、子育ての部署にいたり、あるいは健康福祉センターにいることは、とても安心感がありますね。
児童相談所を立ち上げるときに、いろいろなネットワーク会議を通じてコミュニケーションを盛んにとらなくてはいけないという意識をもちましたし、これからも努力していかなくてはいけないなと思っています。
●少し話はそれますが、横須賀市の人口が減りつつある理由についてお聞かせください。
減っている理由としては、まず市街からなかなか住む街としてみられていないというのがひとつあると思います。
転出入の差の分析などをすると、同じような人口規模である藤沢市のほうが転出は多いのですが、転入者が圧倒的に多いのです。
藤沢というと湘南のイメージがあり、住んでみたいという気持ちがある一方、横須賀市にはそれがないと感じられているのかもしれません。従って、市街からの流入がないというのが課題になりますね。
また、住宅供給が落ちてきているというところもあります。
そして、もうひとつは働く場所ですね。働く場所が少なくなってきているというのは大きく、昔あった工場などがなくなると、かなり人口の流出があります。そのため、働く場所をもっと増やさなくてはいけないと痛感しています。
やはり、住む街として見られるためには、若い世代に対する施策の充実と新イメージの発信が大切ではないでしょうか。特徴的な発信は、横須賀の魅力に繋がっていきますよね。
横須賀市は横浜まで遠いイメージがあるかもしれませんが、実際には近いですしね。
情報発信については、市と商工会議所、市内事業者が一体となり街ぐるみで子育て世帯を応援するための“すかりぶ”という事業がありますが、このサービスの中で様々な情報をお伝えしています。
携帯でのネット上の会員制ではありますが、すかりぶの画面を見せると割引を受けることができたり、横浜マリノスのチアリーディングスクールの1日体験に無料で申し込めたりするなど、子育て世代に優しい環境づくりをしています。
また、すかりぶ内での新たな情報発信として考えているのが、離乳食レシピの掲載です。現在、離乳食教室という子育ての教室に携わる管理栄養士さんたちがもつ数々のレシピを、すかりぶでアップさせていただく相談などをしているところです。
このように、もっと活用して情報発信をしていきたいですね。
*すかりぶについての詳細はこちらをご覧ください。
●最後にこれだけは伝えておきたいということがあれば、メッセージをお願いします。
いつの日かできればすごいなと思っているのが、フッ素を水道水に混ぜるということです。歯科衛生士さんを市の正規職員として雇用するなど虫歯予防に力を入れていますが、フッ素を混ぜることで虫歯はほとんどなくなりますよね。
ただ、実現に際しては一筋縄ではいかないところがあるのですが。
あとは、卵子凍結ですね。
これだけ結婚が遅くなってしまっている中で、それでもやはり子供が欲しいと思いながら結婚の機会を探している方にとっては、すごくいい話ではないかと感じています。赤ちゃんが欲しいと思っている方には、ぜひそういったチャンスを作っていきたいですね。
実は、横須賀市では特別養子縁組も児童相談所で行っています。関西や名古屋、福岡では盛んですが、おそらく神奈川県内では初めてですし、関東近県でも児相が直接やっているところは少ないですよね。
さまざまな理由により家庭で適切な養育を受けられない子どもを、新たな愛情あふれる家庭環境で健やかに育んでいきたいというところが根底にあります。
そのため、どちらかというと市外からどうぞお客さんいらっしゃいというよりも、赤ちゃんが欲しいという気持ちを大事にするという姿勢で取り組んでいます。
情報発信についても生かせるものは生かしていきますが、そのために事業をやっているのではなく、気持ちに寄り添えるというのが第一です。
その上で、発信に値するものはどんどん発信して伝えていきたいと考えています。
最後になりますが、妊娠はゴールではありません。
妊娠というひとつのハードルを越えれば無事に出産をするというハードルがあり、それを超えるとまたその日から子育てがスタートします。
わたしたちは妊娠だけではなく、その先まで一緒に寄り添っていきたいという気持ちをもっていますので、安心して相談して欲しいと思っています。
横須賀市 特定不妊治療費助成事業
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3440/g_info/l100050462.html
まとめ
今回は自治体でも不妊治療助成に力を入れておられる横須賀市の取り組みを市のTOPと責任者に伺うという豪華なインタビューとなりました。
横須賀市は様々な分野でユニークな取り組みをされている市として全国に知られています。今回、母子保健について伺っても、その姿勢は同じなんだなと感じました。
以前、ベンチャーを興している友人もベンチャー企業にとって横須賀市は様々なサポートがあり、魅力的だと話していました。
品川―横須賀で44分、横浜―横須賀26分と考えるとベッドタウンとしても十分魅力的なところだと思いました。
吉田市長は「妊活サポートにおいてもいいアイデアや提案はどんどん取り入れるので、ぜひ教えてほしい」と話されていました。街をよくするために全方位的に取り組む姿勢があると感じました。
今、新聞やテレビを見て、行政の不祥事や問題を見ない日はありません。でも、このように街を良くしようと日々努力されている方々がいるというのも事実です。
今回はそういう意味でとても安心感の大きい取材となりました。横須賀市のような自治体もどんどん増えてくると思うので、また、取材できればなと思っております。
吉田市長、森田課長、お忙しい中、インタビューに応じて頂き、誠にありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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