中央クリニック 本山光博院長インタビュー(栃木)

今回は、栃木県下野市で開業されている「中央クリニック」の本山先生にインタビューさせていただきました。

こちらのクリニックでは、より患者さんの利便性を考え、分院を宇都宮と東京八重洲に持ち、一般不妊治療から高度生殖医療まで幅広い治療を行っていらっしゃいます。

また、国内でも珍しく医療機関と研究機関が併設されており、医師だけではなく専門家と共同で不妊治療分野に取り組んでおられることも大きな特徴のひとつとなっています。

それでは、インタビューをどうぞ!

●先生にとって薬剤とはどんな存在でしょうか
必須のものだと考えています。そもそも、わたしたちは若い頃から西洋医学的なトレーニングを受けているので、薬剤を使わない治療は組み立てられないですね。

しかし、薬剤は人間にとって利益も生めば必ず裏があって、悪いこともします。それが副作用ということになりますが、そこに注意して使っていかなくてはいけないものだとも思っています。

そのため、なるべく最小限の投与量で最大の効果が出るような、投与対効果を考えながら使っていますね。

院長の本山先生です。

院長の本山先生です。

 

●不妊治療薬の副作用で気になることはありますか?
他の診療科に比べると、不妊治療の場合はそれほど多種の薬剤を使っているわけではなく恐ろしい副作用も少ないと思っていますが、その中でも気になる副作用といえば、基剤特有のアレルギーですね。

ホルモンはそれ自体が体内に存在するものなので、物質自体が純粋であれば害を与えないはずです。ですが、それを薬にするためには、安定化や保存に必要な基剤を加える必要があります。その基剤の種類によって副作用が起こることはありますね。

例えば、黄体ホルモンや卵胞ホルモンを含む薬剤、黄体ホルモン製剤の基剤としてごま油やピーナッツ油を使っているものがあります。この場合、それらにアレルギー反応があれば、その薬剤自体が使えなくなってしまいますよね。

もうひとつは、排卵誘発剤を使った時に起こりうる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。LHを急激に上げるためhCG製剤を使うのですが、それによってOHSSが引き起こされることがありますね。

●今後、新薬で期待するものはありますか?
純粋なLH成分だけを含んだ薬剤を使用すれば、OHSSの発症も抑えられるかと思いますが、現時点では国内で承認を得ているものがありません。海外では販売されているようですが、取り寄せるにしても価格が高いのがネックです。また、半減期も短いので、重ねて使用していく必要がありトータルコストが高くなってしまいます。

そのため、LHとFSH、どちらも純粋なホルモン剤が低コストで国内販売されることを期待しています。また、低反応性の方に対して効果がある、魔法の薬も開発して欲しいと思いますね。

新薬ではないのですが、既存のものでもあまりに薬価が安すぎてなくなっていく薬もありますよね。でも、必須だと思って使っている場合もあるので、そういった部分も考慮して欲しいと感じています。

 

クリニック外観です。

クリニック外観です。

 

●この10年でクリニックとして大きくかわったことがありますか?
基本的には変わっていませんね。

ただ、20数年前は不妊治療を行う施設も少なく、体外受精をするにしても、注射を打ったり卵胞をみるために栃木まで来ることが難しかったり、地元でも診てくれないという状況でした。

そのため、東京駅だったら便利なのではないだろうか、と東京駅近くに分院を作りましたが、だんだんと老朽化してきたのでリニューアルする必要に迫られました。しかし、診療を続けながらは行うことができなかったため、以前の場所よりも少し離れたところに移ったという変化はありましたね。

技術的なものについては、ICSIや未受精卵も含めた凍結技術の向上ですね。

●患者さんの変化はありますか?
年齢層ですね。日によっては、体外受精を4,5人実施して全員が40歳以上ということもあります。
平均初婚年齢も年々上昇傾向ですので、出産年齢も上がってくるんですよね。

ただ、知っておいていただきたいことは、生理がくる限り妊娠出産ができるわけではないということです。

ですので、色々なところで卵の年齢や、妊娠との相関関係について知る機会を作っていくことは大切だと思います。実際に知らない人も多いですしね。

また、乳がんは以前と比べて、診断法や日本人の体質の変化などによって増えてきています。乳がんにかかってしまうとホルモン療法による治療のため一旦、リプロダクションから離れなくてはいけません。

リプロダクションは生物の根源的な本能の一部ですし、そこから離れなくてはならない上に、乳がんになってしまうことはすごく悲しいことですよね。

しかしそこで、乳がんが治癒した時には次の世代を作ることも考えられるんだよ、ということを伝えてあげられるとすれば、随分と気持ちも楽になるのではないでしょうか。その辺りの部分を、もう少し公的な方法でバックアップしてあげるべきではないか、とは感じています。

クリニックは自治医大病院の隣に位置します。

クリニックは自治医大病院の隣に位置します。

 

男性の白血病、精巣腫瘍もそうですね。精子凍結はできますが、全部自費になります。スタート時の年齢にもよりますが、お預かりする期間も長くなることが多くなるのでコストがかかりますね。

今は随分とネットワークも出来てきましたが、あまり表面化してこない料金面について、少しでも指針を出し妥当な金額を提示してもらえれば、こちらも話を切り出しやすいですね。

あと一ヶ月後で化学療法が始まるという、本当に困って相談にきている方に対して精子凍結を勧めるにしても、いきなり料金の話はしにくいですから。

 

●今、力を入れていることを教えてください
昔と違って、今は近隣に体外受精を行っている施設がたくさんあります。しかし、一般不妊治療もやっているところは少ないですよね。

卵管に問題がある、精子が非常に少ないなど、最初から体外受精が必要な方というのはいらっしゃいます。

しかし、色んな考えがあると思うのですが、今はあまりにも簡単に高齢だからと体外受精するケースが多いように感じます。患者さんが望まれて行っていることであればいいのですが、中にはそうではない方もいるのではないでしょうか。

その点、ここは不妊治療の入り口からARTのレベルまで何でもできますし、そういった患者さんのニーズもあると思うので、普通の治療ができる施設として存続し続けられたらいいですね。

ロビーの様子です。広々としています。

ロビーの様子です。広々としています。

 

●今後のビジョンについて教えてください
いま、当院ではMD-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)を行っていないのですが、今年中には顕微鏡を導入して実施していきたいと思っています。

従来のTESE(精巣精子採取術)であれば当院でも現在、行うことができます。しかし、TESEで精子を回収できなかった場合は、次のステップとしてMD-TESEを行うことになり、そのような場合は二度手間になってしまいます。

確かに普通のTESEでも精子を回収できる方もいるので、順番を踏んでいくのか、最初からMD-TESEを選ぶのかご本人が選択できる環境が望ましいですね。

また、東京駅から近いのでもう少し余裕ができたら、例えば土曜の午後などに男性の話を聞く機会を持ちたいですね。現代はストレスも多いですし、生活習慣も悪く、性機能障害の方も多くなってきていますしね。

なかなか人に相談しにくいテーマなので、愚痴を聞くだけでも違うのではないでしょうか。

着床前診断についても2年ほど前から考えています。分析の方法なども含めた方向性に関しては、まだ考慮の余地がありますが。

 

●最後に読者へのメッセージをお願いいたします
子どもが欲しいと思っても現在は、結婚しないと社会的に難しい部分もあります。そういったことも含めて、できるだけ早く、考えるきっかけを作ることは大切だと思います。

また、最近ではそういった行為をもつことも少なくなっていますよね。子どもが欲しいと思ったら、女性は排卵時期に行為を持ちたいものですが、それが旦那さんの仕事の都合に合っているとは限りません。これはほんの一例ですが、そういった話をする機会も少ないのでしょうね。

場合によっては、旦那さんの長期出張などで排卵時期に行為をもてない場合は、事前に精子を凍結保存しておき、排卵日に人工授精することもあります。これは、精子の状態や回収率も考える必要があるので全員ができるわけではないのですが、様々な選択肢が増えてきていることはいいことですよね。

女性に関しても、仕事の都合で排卵が起こるわけではありません。人工授精する場合でも検査のための通院時間が必要になりますが、それを会社に言い出しにくい状況です。会社の仕組みにもよりますが、時間休を取りやすくするなど会社の雇用主も、妊娠を考えている方が働きやすい環境を作って欲しいと思います。

 

<まとめ>
今回は、長きにわたって不妊治療領域に携わっていらっしゃる本山先生に貴重なお話をお伺いすることができました。

近年では体外受精や顕微授精をされる方が年々増加傾向にありますが、決して全ての方にとって必須のものではなく、一般不妊治療でも十分効果を発揮するケースも多々あります。そういった患者さんに対しても、ご本人が納得して治療を行えるよう幅広い選択肢を提供したいとのお考えがとても素晴らしいと感じました。

また、不妊に関わる悩みは女性よりも男性のほうが吐き出す機会が少ないものです。今回のインタビュー記事内のビジョンにもありましたが、そういった方々がより気軽に話せるような場を作っていただければ、救われる方も多いのではないでしょうか。

診療の合間のお忙しい中、取材を受けていただいた本山先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

●関連サイト
中央クリニック
http://www.centralclinic.or.jp

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