田村秀子婦人科医院訪問記(京都)~不妊治療とお薬について

このたびは京都の不妊治療における第一人者である田村秀子婦人科医院院長の田村秀子先生に「不妊治療におけるお薬について」のお話をインタビューしてまいりました。秀子先生とは20年来の知り合いですが、不妊治療のお薬全般についてじっくりとお話を伺ったのは今回が初めてでしたので、とても新鮮に感じました!

なぜ秀子先生に多くの患者さんが慕い、集うのか?
お薬のお話を伺いながら、「なるほどな!」と改めてその理由を理解した次第です。

それではインタビュー内容をどうぞ!

院長の田村秀子先生です!

院長の田村秀子先生です!

1)先生にとって、不妊治療における薬剤とはどんな位置づけですか?

患者さんには、いつも薬とは“近視のためのメガネ”と同じ存在であるとお伝えしています。近視や遠視、乱視それぞれに合ったメガネがあるように、お薬もその症状に応じて使い分けていきます。

患者さんの中には、薬を飲みなたくないという方もいらっしゃいます。そのような方には、「メガネをかけずに読み間違えるよりも、メガネをかけて正確に読み取るほうがいいのと同じように、お薬もそのような形で使うものですよ。」とお話ししています。

そして、症状に見合う薬が数種類あるならば、近視や乱視を見極めるように、患者さんの状態を見ながら使っていきます。

さらに言うと、視力を矯正するためにはメガネだけではなく、コンタクトを選択する場合もあると思います。その理由は美容目的など様々ですが、そのような使い分けを薬に当てはめるのであれば、例えばプロゲステロンの剤型を内服や注射、膣剤へと変えていくことになるのだと思います。

また、薬の用量や使い方についてですが、患者さんが注射するときにも逃げずに前向きになっている時期をしっかり見極めることが必要です。注射をしばらく続けていて卵巣が疲弊している、さらに本人も治療に消極的な時期であれば、「少しお休みしましょうか?」とこちらから声をかけてあげることにしています。

一方、治療を続けていても排卵が起こらず、LH(黄体化ホルモン)が必要になる場合があります。ですが、LH値が高くなることで卵巣が腫れてOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を引き起こしてしまうこともあります。

そのような時は、OHSSになる可能性を患者さんに説明し、予め納得した上で治療に臨んでいます。このとき、万が一休まなければならない状況になったとしても、患者さんが休むことができるなど対応可能な時期であることも前提となります。

このような時期に思い切って治療を行う場合は、患者さんも覚悟を決めているので過度の負担を感じないものです。

しかし、最近ではカバサールを同時に使うことで、OHSSになって腹水が溜まるようなケース、ドーパミンを使って治療しなければならないような重症に至るケースは少なくなってきていますので、必要以上に怖がることはないと思っています。

秀子先生の著書です。こちらはベストセラーになりました。

秀子先生の著書です。こちらはベストセラーになりました。

2)副作用については、どのように捉えられていますか?

プロゲステロン製剤やピルのような薬を使うと、血栓などが現れる場合があります。従って、このような薬は副作用を予期しながら使うべきものであると思っています。

ただ、副効果と副作用は別に考えなければなりません。

例えば、クロミッドを使うことで頸管粘液の減少やLUF(黄体化未破裂卵胞)、子宮内膜が薄くなるという現象がみられますが、これらを副作用と考えてしまうとクロミッドが使いにくくなってしまいます。

先ほどお話したことと重複しますが、患者さんを怖がらせないように、予め起こりうる可能性を説明し、同時に今の状態を変えるためには使うべき薬ということもお伝えします。そして、納得した上で使うことが重要です。

さらに、飲み始めは細かく、どのような症状が出てくるのかを確認した上で必要に応じて切り替え、あるいは薬を中止することができるバックアップ体制を整えて使うべきです。

また、非常に大きい副作用については事前の説明はもちろんですが、飲み始めて一週間後に必ず来てもらって、「薬を飲んで何か問題はなかったですか?」と確認することも大切です。

そして、例えば便秘など想定内の症状であれば、必要に応じて薬をお出ししています。

しかし、用量依存ではなく発現した症状で尚且つ、こちら側が説明不足だった場合は副作用という言葉が大きくクローズアップされ、問題となります。そうではなく、説明済みの症状であれば、「こういうことがあると聞いていたな」ということで患者さんも納得できると思っています。

不妊治療で使う薬剤はそんなに副作用の強いものはないのですが、やはり抗生物質1錠で問題となる方もいるわけです。

そういう意味では、やはり飲み始めに何かがあると考えて、飲んだら飲みっぱなしではなくて一週間以内には一度みてあげる、あるいは何かあったら連絡をするようにという一言をつけてあげるようにしています。

クリニックの待合室の様子です。

クリニックの待合室の様子です。

3)先生が新しくお薬を採用する時の基準はありますか?

エビデンスも重要ですし、患者さんにとって飲みやすい剤型であれば、そちらを選択するということもしています。例えば、漢方薬でいうと、顆粒よりも細粒のほうが飲みやすいと言われれば、そちらを選ぶことがあります。

また、ジェネリックについていえば、不妊治療なので、全く同じものを違う会社が名前を変えただけで出しているということであればいいと思っています。しかし、そうでないのであれば、製造過程の影響などを長期的に調査していない場合、使いにくく採用もしにくいですよね。

4)先生にとって、今後期待される薬があれば教えてください。

ひとつめは、不妊治療から切迫流産ということを考慮に入れると、プロゲステロン膣錠が切迫流産、切迫早産の適応をとって欲しいと思います。

もうひとつは、リコビナントのLH(LHの遺伝子組み換え型製剤)です。これが出て来れば、ペンタイプの注射剤も出てくるので、リコビナントFSH(FSH:卵胞刺激ホルモンの遺伝子組み換え型製剤)と両方使えることになります。

ARTの場合は全て自費だから問題はないのですが、いまは、リコビナントFSHを自己注射で使ってしまうとHMG製剤の保険適応が通らなくなってしまいます。ですので、一般不妊の場合でも最終的にHMG製剤を使いたいときには全部自費になってしまいます。

しかし、PCOの場合でも、やはりLHを少し追加したい場合もあります。FSHを、そして後半にLHを加えると順調に進むというケースがあったとしても、それに対して保険適応がありません。また、混合診療もできませんので、ずっと使い続けるしかありません。

リコビナントのLHが出て来れば、それも解消できるし、体外受精の患者さんに対しても使いやすいので期待しています。

<最後に>

今回は田村秀子先生に不妊治療におけるお薬についてお話を伺いました。秀子先生が患者さんに説明されている内容はとても分かりやすく、患者さんがどのように治療に取り組むのかをサポートしてくれるものです。

患者さんからの質問でも常に上位にランキングされるお薬のことですが、実は患者さんサイドではほとんど理解されずに処方されているケースも多いと思います。今回のインタビュー内容はその疑問点を解消出来るきっかけになるかと思います。

余談ですが、田村秀子先生は今年、全国で初めての女性の産婦人科医会会長(京都産婦人科医会 会長)となられました。様々なイベントや京都府内はもちろんのこと、全国のドクター方を巻き込んでの社会活動なども行われており、かなりお忙しい中に時間を取って頂いた上でのインタビューでした。

この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。

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