不妊治療薬を製造・販売している製薬企業の紹介シリーズ(2)~メルク・セローノ社
製薬企業の使命は、病気で苦しんでいる患者さんのために優れた医薬品を提供し、医療従事者へ薬剤に関する適正な情報を提供することです。
でも、実は薬剤やその知識を提供するだけではなく、様々な社会貢献も行っているのです。その内容は多岐に渡り、中には薬剤と直接的な関わりのないものも含まれています。
製薬会社を少しでも身近に感じて頂きたいと思い、そのような活動もこのサイトにて紹介していきます。
今回、ご紹介する企業は「メルクセローノ」というドイツの企業です。
<メルクセローノの歴史>
メルクセローノは、世界で最も歴史のある医薬品・化学品企業であるメルクグループの医療用医薬品部門です。
1668年、フリードリッヒ・ヤコブ・メルクがドイツのダルムシュタットにある「天使薬局」を取得します。これが、メルクのルーツになります。
1827年、経営権を引き継いだハインリッヒ・エマニュエル・メルクが、アルカロイド類やその他の化学物質の大量精製を開始します。この背景として、彼が治療薬に対する知識の充実だけではなく、低コストで提供できる環境を求めたことにあります。
そのため、製造の場は薬局から大規模な化学工場へと移り、研究開発志向型の製薬会社へと変貌を遂げていきます。
さらに、彼の大きな功績はそれだけにとどまらず、製品の純度保証を行った点にあります。メルクの製品は厳しい純度基準に基づいて製造されており、これが後に比較化学分析の基礎となりました。
1891年、ハインリッヒ・エマニュエル・メルクの孫にあたるジョージ・メルクが米国に子会社を設立します。しかし、この子会社は第一次世界大戦中に米国政府に接収されたため、その後はメルクから独立し、別々の道を歩み始めます。
この独立した企業が、米国を拠点とする現在のMSDになります。
なお、MSDは北米でメルク(Merck)という社名を使う権利を有しているため、メルクは北米に限定して「Emanuel Merck(エマニュエル・メルク)in Darmstadt(ダルムシュタット)」の頭文字をとったEMDのブランド名を使っています。
1920年にはこれまでメルク家のみで行ってきた経営が、初めてメルク家出身者以外の役員も参加することとなり、経営体制の改革がなされました。
さらに、その7年後には最初のビタミンD製剤を発売し、その後も最新の科学を製品化していきます。
1945年には、第二次世界大戦により海外の子会社を失い、空襲の影響で製造・研究施設のほとんどが破壊されました。ですが、1955年にはコルチコイド製品を発売し、再び新しいスタートを切ります。
2007年、スイスのバイオ医薬企業セローノ社を買収してジェネリック部門を売却し、現在のメルクセローノの姿となりました。
不妊治療薬のほとんどはこのセローノ社のバイオ技術によって生まれたものですが、買収された今となってはそのセローノ自体の歴史情報はあまりネット上などにも存在していない感じです。創始者のベルタレーリ一族の話も出てこないのは寂しい限りです。
現在、メルクセローノは医薬品だけではなく、液晶パネルなど化学分野においても発展を遂げ、この2つはメルクグループの重要な柱になっています。
<メルクセローノ(日本)>
日本では、2007年にドイツを拠点とするメルクが、医療用医薬品部門とスイスのバイオ医薬企業セローノを統合したことにより、同年10月にメルクセローノ株式会社(以下、メルクセローノ社)が発足しています。
メルクセローノ社はメルクグループの一員として、世界で販売している先進的なバイオ医薬品や進行中のプロジェクトの開発を進め、先進的な医薬品を提供しています。
現在は、不妊治療領域、がん領域・内分泌代謝領域など幅広い領域の製品を取り扱っています。
メルクセローノ社は、独自に開発したゴナールエフ®皮下注用75/150・皮下注ペン300/450/900 (遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤)と排卵誘発に用いられるセロフェン®錠50mg (排卵誘発剤 日本薬局方 クロミフェンクエン酸塩)の製造販売元となっています。
また、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アンタゴニストのセトロタイド®注射用0.25mg/3mg
(GnRHアンタゴニスト製剤)は、1999年4月に世界で初めて承認を受け、世界94カ国において承認された早発排卵防止薬です。
現在、日本化薬株式会社がドイツのゼンタリス社から輸入・製造し、メルクセローノ社が販売しています。
<メルクセローノと不妊治療>
上記にも書いたとおり、メルクセローノ社は日本においていくつかの不妊治療向け製剤を販売しています。
ゴナールエフ®皮下注用75/150・皮下注ペン300/450/900
(遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤)
セロフェン®錠50mg
(排卵誘発剤 日本薬局方 クロミフェンクエン酸塩)
セトロタイド®注射用0.25mg/3mg
(GnRHアンタゴニスト製剤)
メルクセローノ社は不妊治療領域における世界のリーディングカンパニーであり、不妊に悩む多くの人々の夢を叶えるお手伝いをしています。
メルクグループは国際社会において様々な社会貢献も実施しているので、具体的な活動をいくつかご紹介していきます。
疾病に関わる活動として、世界保険機構(WHO)と協力し、主にアフリカで学齢期の子供たちを対象とした住血吸虫症(寄生虫病)の治療を支援しています。
また、無料の甲状腺検査を実施する「サイロモービル」を所有しており、車で移動しながら疾病予防を行っています。
この他、ハインリッヒ・エマニュエル・メルクが目指した質の良い治療薬の提供のため、世界に出回っている偽造薬や粗悪な医薬品を検査することができるコンパクトな検査装置「GPHF-Minilab®」を提供しています。
偽造薬は世界で出回っている医薬品のおよそ1割を占めるとされ、有効性分含有量を厳格に審査する管理体制でない国では、深刻な影響を及ぼしています。
さらに、メルクグループの社会貢献はそれだけにとどまらず、Merckフィルハーモニーという交響楽団を所有するに至っています。
クラシック音楽ファンから非常に高い評価を受けており、ヨーロッパ諸国やアジア、南米などへのコンサートツアーも精力的に行っています。
<関連サイト>
メルクセローノWEBサイト
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