薬の副作用シリーズ:OHSS(卵巣過剰刺激症候群)とはどんな症状なの?
<OHSS(卵巣過剰刺激症候群:Ovarian hyperstimulation syndrome)とは?>
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは、排卵誘発剤(hMG製剤・FSH製剤)投与に伴い多数の卵胞が発育することにより、卵巣が腫れたり、それに伴い、下腹部痛などの症状を呈する症候群のことを示します。
重症化することもあり、腹水がたまり、血栓症や腎不全、呼吸不全まで起こることもあります。症状が軽度なときは安静の指示がでますが、重症化すると入院して治療を受けることもあります。
血管は水分が血管の外に漏れないようにする仕組みがありますが、その仕組みが破綻すると血管内の水分が血管外に漏れ出てしまうことになります。OHSSではその血管内の水分が出てしまい、腹水が溜まってしまうことがあります。(血管の透過性亢進といいます)
卵巣過剰刺激症候群は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方が起こりやすいと言われています。
<症状について>
卵巣が腫大し、腹水が貯まることにより腹部膨満感、体重増加、腹囲増加が認められる。次いで腹部膨満に伴う腹膜刺激によって下腹部痛、悪心、嘔吐が起こる。
また、毛細血管の透過性亢進により血管外への水分・血漿成分の流出が引き起こされるため、血管内で血液の濃縮が起こり、のどの渇きや尿量の減少をきたす。
よって、下記のような症状が出てきたらすぐに主治医に連絡することが大事です。
・体重が1日で1kg以上増えた時
・尿量が1日500ml以下になった時
・手のしびれや頭痛が出現した時
・急に痛み止めが欲しいぐらいの腹痛が出現した時
・呼吸が苦しくなった時
<OHSSが起きやすい要因とは?>
若年(35歳以下)
やせ型
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
OHSSの既往(以前OHSSになったことがある)
血中エストラジオールの異常高値(発育卵胞数が20個以上)
高用量のゴナドトロピン製剤使用
黄体機能不全に対するhCG追加投与
妊娠
などが挙げられます。
<OHSSが進んでいるかどうかを調べる検査は?>
OHSSの状態が見られた時、最初に検査する項目はこちらです。
(1)採血…血液の濃縮の程度を見て、肝機能の炎症の有無などを調べます。
(2)超音波検査…卵巣の大きさや腹水の程度を調べます。
(3)必要ならば、胸のレントゲン写真や血液凝固の検査をします。
(4)OHSS時には2~4日おきに診察の上、必要ならば採血しますので来院して下さい。
<予防方法について>
不妊専門医の先生方にとってOHSSは良く分かっているものなので、ある程度、予防をすることが出来ます。排卵誘発におけるhMGやhCGの投与法の工夫(調整)で予防したり、クロミッド/FSH/GnRHアンタゴニストを使った排卵誘発法や発育卵胞が多すぎる場合はその周期は排卵誘発中止することで予防できます。
また黄体機能不全治療はhCG投与ではなく黄体ホルモン投与をすることにより、予防が出来ます。
<もしなってしまった時の治療は?>
妊娠していない場合は、月経がくるとこれらの症状は良くなります。一方、妊娠している場合には、さらに2~3週間ぐらい症状が続きます。
妊娠しているかどうかは、HCGの注射の翌日から数えて、18日目以降に妊娠反応を調べると判明します。この事は、もし排卵後の18日目になっても基礎体温表が高く、まだOHSSの症状が続きますと妊娠している可能性が高いと言えます。妊娠が判明し、OHSSの状態が現状で2~3週間ぐらい継続することがありますが、 一般的に悪化することはまれです。
軽いもの、中等度のものは、自宅安静となります。高度なものだと入院治療が必要になります。入院の場合、血液濃縮の改善を目的として輸液療法を行います。OHSS では高カリウム,低ナトリウム血症状態を呈していることから,これを是正するために細胞外液を輸液し、同時に,蛋白製剤を用いて低蛋白血症を補正して膠質浸透圧の維持をはかることになります。
血液濃縮が改善されたにもかかわらず尿量が増加しない場合は,浸透圧利尿剤を第一選択として利尿を促します。凝固能亢進や血栓症に対しては細心の注意を払いながら治療を進めていきます。
外科的療法としては,腹水・胸水穿刺術が行われます。最近では,穿刺液の濾過濃縮後再灌流法が試みられており,重症例においては有用であるとされています。
最近、このように重症になるケースはまれであり、過度な心配は必要ないですが、そういうこともありうる可能性は頭の隅に置いておく必要はあるかと思います。よって、不妊治療において排卵誘発剤を使っている方はOHSSの兆候があれば、遠慮なく自分の通院している医療機関に連絡を取り、アドバイスをして頂くことが大事になります。
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