岡本ウーマンズクリニック 岡本純英院長先生インタビュー

今回は長崎県の岡本ウーマンズクリニックの岡本純英 院長先生にお話を伺いました。

開業されて25年という長いキャリアをお持ちでありながら、今も研究に、そして患者さんの診療にと精力的に活動されていらっしゃいます。今回も先生の仕事ぶりとお人柄が表れるような貴重なインタビューとなりました。

それでは、気になるインタビューの内容をどうぞ!

院長の岡本先生です。

院長の岡本先生です。

 

●前回の訪問時から10年近くが経ちましたが、色々な変化があったのではないでしょうか。

相変わらずアウェイな環境でやっているのですが、それでもようやく乗り越えられそうだなという状況になってきていると感じています。

一番のきっかけというと月並みですが、JISARTに入会してISOを取得したことが転機になりましたね。

以前、ノーベル医学生理学賞を受賞したロバート・エドワーズ博士が来日した際にお話を聞いたことがあるのですが、国内でも圧倒的な差がついていることに愕然とし、何とかしなくてはいけないという気持ちになったことを覚えています。

それから色々な課題も見えてきましたし、ISOの取得にもつながりました。

 

●JISARTに入会されたのは2005年でしたね。

入会後は、JISARTの示すところに従ってISOを取得したのですが、取得後も継続して、インストラクターの先生に月1回来てご指導をいただいています。

JISARTの審査は医師部門、看護部門、ラボ部門、医療事務部門、心理部門と5部門あるのですが、これらを順にご指導いただいてPDCAサイクルをさらに回していくといった形をとっています。

それぞれが自主的に行うので、レビュー内容をかなり細かくみてくれますし、意識もうんと上がってきていますね。

一方、マネジメントレビューも当初は半年に1回だったのですが、今は月1回の実施になっています。

そういった形でカンファランスとマネジメントレビューを行っていくことで、JISARTの審査をそのまま平常心で通過できるようなところまできました。

 

●院内のスタッフも以前より増えているようですが、いかがでしょうか。

ドクターはこの11月から1人増えて、3人体制になります。これで、待ち時間もかなり解消できるのではないでしょうか。だんだん私が窓際になってきている感じです。笑。まあ、それは冗談ですが。

培養士に関していうと、開業医は小回りがきく分、全部一人でやってらっしゃる先生もいらっしゃいますが、これからはやはり培養士が要にはなりますよね。

ついこのあいだまで培養士が6人と、長崎のこれだけのクリニックの規模では多すぎるくらいいました。そのうち1人は身内の事情で抜けたのですが、またその下に2人入ってきてくれました。

また現在、社会人大学院生として佐賀大学まで通っている培養士が2人いて、そのうちの1人が博士課程まで進んでいるところですね。

今は昔と違って、農学部や生物学系等のバイオ専攻の人たちが就職活動として当院のHPを見てくれるようになり、就職活動にみえられるようになりましたね。

3階の受付待合室です。 待合室は、4階にもあります。

3階の受付待合室です。
待合室は、4階にもあります。

 

●先生が元々、思い描かれていた理想に近づいてきているのではないでしょうか。

そうですね。おかげさまで、院長職が忙しくなってきました。他院やJISART関連、公的機関で講演する機会も増えましたね。

そして今は、長崎県大村市にある長崎医療センターとタイアップしています。
生殖医療連携病院として、後期研修医すなわち専攻医を受け入れていますよ。

そういうことをずっとやっていたら、ボクシングいえば「こんなことしていても…」というようなボディブローが10ラウンドくらいからきいてきて、キンシャサのフォアマンとモハメッドアリみたいな感じになっていますね。

だから今は、何事もマイペースにできるようになってきました。

今年で開業25年、留学前から数えれば30年になりますからね。先日、民間のクリニックの賞味期限は30年だとおっしゃった先生がいまして。また、ルールも変わり、保存胚がある場合は登録抹消を認めないということにもなりました。

だから、後継を作らなくてはいけないなということで、3、4年前からこれはと思う先生にアプローチをするのですが、殆どの先生がその前に開業をされてしまいました。ただ、私の場合もそうでしたが、今はもう建築費も高いですし、患者さんが減ってくる時代ですので大変です。

 

●開業当初は、院長お一人で診ていらっしゃいましたよね。

以前は私一人だったのですが、あるときから複数体制になりました。

これは、シドニーのサンダース教授が当院に見えられた時のメッセージがきっかけとなっています。その時おっしゃられていたのが、ある海外にあるクリニックの院長が、クリニックの前で車に轢かれて亡くなったことがあったということ。そして、JISARTに加盟している日本のクリニックは院長一人でやっているところが多いので、そういう事象は人ごとではないということです。
それを聞いて、JISARTではあっという間に二人体制になりました。

一方、2人から3人というのはなかなか進まないですよね。
でも、11月から1人先生が加わり3人体制になりました。そうすると、2+1が5くらいになりますので、やはりドクターは必要だと痛感しています。

今までは、なんとか時間のやりくりでこなしていたのですが、これからは院長職に集中することができるようになりますね。

 

●先生は長崎という場所で研究も診療もしっかりとされておられ、他の先生方からの評価もとても高いと感じているのですが、ご自身ではいかがでしょうか。

JISARTに加盟していらっしゃる先生方に、触発されています。

まだ自分はこれくらいだけれども、もっと頑張っている先生がいることもそうですし、さらに大きな規模で多くの患者さんを抱えている先生もいます。その中で私は、山椒は小粒でもピリッと辛いくらいの感じで、なんとかサバイバルしてという感じでやっています。

色々とやりたくても、患者さんの数が少なければ何もできないですからね。

プライバシーに配慮した、カウンセリングルームです。

プライバシーに配慮した、カウンセリングルームです。

 

●長崎という場所に、こだわられた理由を教えてください。

正直にいうと、最初に福岡も考えました。

しかし、そのころ西日本の記者をしていた古くからの友人に「福岡はどうだろう?」と聞いたところ、天神は遊びに来るところだからクリニックしても流行らないといわれまして。笑。

開業するなら人口が多いところがいいかなと思ったのですが、今考えると、やはり福岡はしなくてよかったかもしれないですね。久留米大学と福岡大学の都市ですからね。長崎は何といっても地元ですからね。

 

●いま、気になるテーマはありますか?

元々は、大学で博士号をとるときに卵胞の顆粒膜細胞の培養をしており、遺伝子はこれからしていかなければいけないテーマだと感じていたのですが、様々な理由で研究を続けることができずに一度、封印したという過去があります。

そして今は遺伝、スクリーニングが注目されていますよね。

オーストラリアやヨーロッパ、アメリカなど海外では何のわだかまりもなく行われています。日本はこのままだと、体外受精のときと同じように10年くらい遅れてしまうのではないでしょうか。

結局は、心拍のある赤ちゃんを早産させている中期中絶している一方で、単一の胚移植の優先順位の参考にNGS を使うことに対して、命の選択というレッテルを貼っています。患者さんが受精卵を1個戻しなさいというときにスクリーリングをしてはいけないということであれば、何を基準に単一胚移植をしたらいいのでしょうか。

まだ導入に向けた倫理的議論の決着が遅れていますが、もう秒読み段階だと思っています。

実施には専門医も大切ですが、むしろ施設審査や倫理委員会、カウンセラーの配置などのほうが問われるのではないでしょうか。ですから、やるからにはしっかりと本格的なものを用意してやらなければならないですよね。

 

●趣味などはありますか?

私の兄が6年、年上で内分泌の医師をしていました。もう行き来もなかったのですが、今年の1月に白血病で亡くなってしまって。

それもあり、これからは元気で生きているうちに、自分のやりたいことをしようと思っています。もう、後に取っておこうという歳ではないですよね。

健康管理もなっていませんし、ウォーキングも途絶えがちになってしまいました。親父は初代バスケット部の主将をしていましたが、うちの兄弟はみんな全然、運動はダメですしね。だから、私はテニスもゴルフもできません。

趣味といえば、車を走らすくらいしかなく、以前はホンダS2000と云うスポーツカーに乗っていました。しかし、バッテリーが上がると手がかかってしょうがないので、泣く泣く処分してしまいましたね。

その他の趣味といえば、旅と音楽くらいが残っています。

今は、ハイレゾでオーディオが甦るのでそれに凝っていました。しかし、飛行機の中だとすごい音量になってしまうのです。そういったことを続けていたら、耳が遠くなってしまいました。

自分の年齢もあるのだろうと思うのですが、耳が不自由になったというよりは難聴ですね。ちょうど老眼と同じように分解能が悪くなってしまいました。
それもあって、ポタアンとハイレゾのイヤホンは奥にしまい込みました。

 

●長崎には離島が多いですが、そこから患者さんは来られますか?

来ています。ここで自己注射のやり方を全部教えて、自宅でしてもらっていますよ。

このあたりは、県庁も近いので安い宿がたくさんあります。だから、そういうところに滞在して、ご主人は先に精子を凍結してもらい、あとは顕微授精するといった感じで進めています。

培養室です。

培養室です。

 

●副作用など、先生が薬を使うにあたって気にされている点はありますか?

むしろいまは逆で、副作用に打ち勝ったという形ですね。
国内の学会で、反響が大きかった話があります。当院のオリジナルなのですが、OHSS阻止目的でフェマーラをトリガーの日に2錠ないし3錠使うのです。

排卵すると顆粒膜細胞が黄体化するわけですが、卵胞の顆粒膜細胞を単層培養し、ホルモンを測ります。そうすると、あっという間に黄体化して黄体ホルモン、つまりプロゲステロンを出しますが、エストロゲンは激減します。

理由は、間質からテストステロンやアンドステロンなどが基底膜を越えて入ることで、顆粒膜細胞の芳香化酵素の作用でエストロゲンに転換されるからです。エストロゲンはアンドロゲンの供給が断たれると出なくなります。

その原理を応用した方法なのですが、これだと安心して卵が何十個も取れるようになります。それでいて、OHSSにはならないのです。正産率もかなり高くなります。いうならばPCOは宝の山ですよね。

流れとしては、HMGを150単位でずっと投与し、最後はリュープリンでワンショット、スプレーは鼻が悪い人には使いにくいですからね。

最後の日も自己注射してもらっています。朝来てもらうのですが、エストラジオールの値が4000pg/mlでも、レトロゾール3錠でストンと2000や3000pg/mlまで下がります。

それからHCGを使わずにアゴニストを使うと、もうOHSSは起こらないですね。そうすると、卵が20〜30個取れたりします。全部取って胚盤胞まで培養して全胚凍結です。これに加えて、タイムムラプスによる観察も行っています。

先日カルテを整理していたら、一番パーフェクトの人は全く滞らずに、一度の採卵で3回、3人兄弟ができているということがありました。

これにPGSが加われば、成績は更に良くなりますよね。当院では、5,6年かけてこの方法を作り出しました。

フェマーラも、最初は乳がんの適用でしたが、今は慎重な言い回しながら解禁になっています。エストロゲンをこれで減らせば、OHSSは怖くないですよね。

実は、当院に来られた方のご主人の精子をスイムアップすると、半分以上が悪く、移動に難があります。体外受精通りのスイムアップをして10万や20万上がってくれば普通の体外受精ができますし、そうでなければ、初めから顕微授精をしています。もうそういう時代に入ってきていますし、すでに6割が顕微授精になっていますよね。適正な受精のタイミングも重要です。

ご主人の精子はスイムアップしてくれないものが多くいる、奥さんはPCOでOHSSになってしまう。中途半端な体外受精をすると妊娠しない。これが原因不明の不妊症と言われている本体であり、その大多数を占めているのですが、カップルで診たときにこれに気づかれていないのだと思います。

 

●不妊治療を受けられる方の年齢層も変わってきたのではないでしょうか。

そうですね。当院では、40代以上や他所で上手くいかなかった方に対して、インフォームドコンセントの前に一度、会わせてもらっています。そういった方たちは、あちこち行く間に疲れてしまい、どうせまた体外受精だろう不信感を抱いて斜めに構えている人が多いように思えます。

そのため、初めに43歳以上は全部自費になってしまうということも話しますし、減数分裂から教えます。

 

●まとめ

非常にバイタリティ溢れるお話とともに、OHSSを防ぐためのオリジナルな方法をご紹介いただきまして、まさに目から鱗のインタビューとなりました。
これも、先生ご自身の豊富なご経験と、飽くなき探究心から生まれ出たものなのではないでしょうか。

岡本先生、長時間の取材にお時間を頂き、ありがとうございました。
この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 

●関連サイト
岡本ウーマンズクリニック
http://www.okamotoclinic.gr.jp

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