日本初の精子バンク設立はどのようにして実現化したのか?

このたび日本初の精子バンクが立ち上がるということで、獨協医科大学埼玉医療センターの特任教授で、リプロダクションセンターのゼネラルマネージャーでもある岡田 弘先生にインタビューを依頼したところ、快く了承いただきました。

岡田先生は皆さんもご存知の通り、日本の男性不妊治療を推し進めて来られた第一人者です。

私も今まで様々なテーマでインタビューをさせて頂き、とうとう今回は長年の懸念事項であった精子バンク設立に動かれたということで、興味津々でお話を伺いました。

それではインタビューの様子をどうぞ!

特任教授の岡田 弘先生 です。

・ 実際、公的な精子バンク以外にどういうものがあるのか、日本生殖医学会で発表された内容について教えてください。

1949年に、日本で提供精子による人工授精の報告が初めてありました。その後の1965年頃には、年間1531例のAID(非配偶者間人工授精)が行われていたのですが、その後は精子提供者が減少していました。

これまでの、無精子症で精巣内精子採取(TESE)を試みるも精子回収ができなかった、男性不妊患者カップルだけではなく、AIDが必要とされている背景には、シングルマザーを希望する女性が増えてきたこと、同性カップルが増えていることがあげられます。

精子提供に関して、SNSでのやり取りが増えてきた理由の一つに、世界的にコロナウイルスが流行ってしまい、提供者も減少したことがあげられます。移動制限ができてしまったので、新潟でAIDができる施設があったとしても東京から行けず、受けたくても受けられないという状況になってしまいました。

しかし、女性の年齢は上がっていき、そこにつけ込んできたのがインターネットを介した精子の授受になります。

調査ではまず、日本におけるインターネットを介した精子授受の現状をネットでとにかく調べ尽くしました。検索エンジンはGoogleとヤフーとgooを使いました。

キーワードは精子提供者、精子バンク、ボランティアなど。そして、二次調査としては、引っかかってきたサイトを細かく調べました。連絡先の電話番号や責任者名の確認、所在地や面談の機会の有無、そして、契約書や誓約書など一つずつ調べることになりました。

精子提供者の情報として、特にどのような事柄に注目したかというと、主に感染症検査です。しかし、感染症検査に関する記載がないものがほとんどで、記載されていたとしても具体的にどのような検査をいつ行ったかについては言及していないものばかりでした。

また、精子授受の方法や性交渉の有無についての費用が無償か有償か、有償であればいくらなのかといった事柄に注目して調べました。実際に該当したのが140サイトです。

そのうち除外したのが129です。感染症検査や精液調査、誓約書等の不備がありました。また、本人は望んでいないにも関わらず性交渉を迫られたケースなども除外し、残りが11となりました。

さらに、本人と親族に遺伝性疾患が無いことを記載していないものを外すと残ったのが5サイトとなりました。

その5サイト(A~D)の内訳をみると、AとBは個人で、C、D、Eは会社でした。A、B、Cは、代表者名は書かれていませんでしたが、メールアドレスはしっかり書かれていました。

他サイトの中には、クリックするとラインに飛び、そこから先は個人間でのやり取りになってしまうため、全く情報が表に出てこないところもありました。しっかりとしたメールアドレスがあるということでAとBは残しました。面談も同意書もありましたね。

精子費用については、交通費と容器代程度の実費負担であることに加え、性交渉もしておらず、割ときちんとしている印象です。

Cについては、登録費用が3万です。ただし、治療先が海外になります。C、D、Eは海外施設で行い、場合によっては精子提供者も一緒にトラベルする必要があります。

そのため、精子提供者の滞在費も込みになります。DとEは提供精子による子宮内人工授精(いわゆるAID)だけではなく、体外受精や顕微受精までしてしまおうというものです。

インターネット上では個人間での取引が横行していて、学歴や容姿をアピールし、既に60〜70人作っているとアピールする人もいます。

実際に精子提供について、年齢や感染症の有無などを載せているページもあるのですが、わからない人から見るとしっかり書いてあり、大丈夫そうだなという印象を抱きがちです。しかし、感染症検査の項目は書いていませんし、精液検査はどこで行ったのかも不明です。本当に正しいのかわからないですよね。

トラブルとして見受けられるのは、無理やり性行為を伴うものや学歴詐称など。ひどい場合には国籍詐称もありますし、AIDをした事実を旦那さんのご両親に話すと脅し、金品を迫ったりすることもあるということです。

結論としては、140施設中、96.4%が不適格という結論に至りました。

5サイトのうち、2つは個人で3つは会社ですが、治療を受けるのに高額な費用がかかってしまいます。

従って、患者がリスクの高いものに頼らなくて済むように信頼性や安全性の高い国内の精子バンクを設立し、AIDが医療機関で行われるようにすることが必要だということです。

・ 精子バンクについてお聞かせください。

当初は、リプロダクションセンターの中に作るつもりでした。

しかし、事業の特殊性と迅速性を考えて、学外に別組織を造ることにしました。また、他の組織を頼らずに独立した事業を継続的に運営すするために、株式会社を選択しました。

元々、日本精子バンクという名前にしようと思ったら登録されていたので、インパクトの強い株式会社精子バンクにしようということになりました。

去年の夏に計画ができていたのですが、実際には計画が動き出したのは、去年の秋くらいです。

次第に、精子凍結だけではなく、他の種類の細胞の凍結保存も同じ手法で事業化できると考え、細胞凍結の事業全般を扱う会社としてやろうということになり、みらい生命研究所という名前にしました。登記簿とホームページがもう公開されているので、見てもらえれば分かるかと思います。

例えば、教育資材の製作やコンサルティング、医者の就労支援なども行います。他の収益事業と合わせて行いながら精子バンク事業が成り立てば良いと思っていますので、現在提示している精子保管料の15万円という価格設定はギリギリのラインだと思います。

そもそもドナーとして合格するのは、スクリーニングしたもののうちで高く見積もっても30%ほどです。かなり多数のドナー候補者のスクリーニングを行わないと、供給予定の精子数を賄えないことになります。先行事例がないわけですから、そもそもドナーが集まるのか、実際のところは誰にもわかりません。

しかし、この仕組みがきちんと動き出せば、現在、闇に潜っているものが一掃できるのではないかと考えています。

よく、出自を知る権利の関係はどうなのかと聞かれることが多いのですが、私たちが行うのはB to Bです。

出自を知る権利の話が出てくるのは、B to Cの部分です。患者さんはクリニックと契約をすることになります。

ドナーを集めるための小グループでの説明会は、これから行います。

適格ドナーの精子の凍結保存を開始しても、HIVの検査は凍結開始から6か月を経てから2回目しないといけないので、すぐに精子供給が開始できるわけではありません。

みらい生命研究所では、精子凍結前に精子の機能検査(精子の質を検定する検査)も行い、さらに精子凍結保存、融解後に再度精子機能検査を行い、良好であると保証された精子のみを供給することにしています。これにより、提供精子の人工授精(AID)による妊娠率の向上が期待できます。

精子提供を受けるには、日本産科婦人科学会のAID登録施設になってもらわないといけないですね。報告義務がありますので、それが出来ない施設とは組めません。それだけきちんととしているということを示さないといけないですよね。今は12施設しかありませんが。

今は、ネット上からの公募を行っていませんが、精子バンク事業が世間に広く認められるようになれば、募集対象を広くしてゆくことでドナーを集めやすくなると考えています。当面は、医療関係者に絞ってやるつもりです。

大きくネット上で公募をせず、口コミだけにしようと思っているのは、最初に変な伝わり方をしてしまうことを防ぐためです。あくまでお渡しできるのは寸志と交通費程度になります。

ゆくゆくは、この事業を拡大するための資金調達と、事業の透明性の確保のために上場まで持っていこうと思っています。

結構、大きなビジョンで動いていかないと予想通りに物事は進まないと思っています。

精子を保存する液体窒素タンク

●まとめ

冒頭でお話頂いた通り、最近はネットで怪しい「精子提供します」というようなサービスが横行しています。こういう状況は由々しき問題で、根本的解決になるものがないものかと悶々としておりました。

そこで岡田先生がきちんとした手順と内容で精子バンクを立ち上げられたことは日本の生殖医療における福音だと感じました。

まだまだ立ち上がるまでに様々な課題はあるものの、それをみんなで力を合わせて全国規模まで育てていきたいという先生の情熱とプランに共鳴し、多くの人が関わり、協力されるのだろうなと感じております。

岡田先生曰く、「最後のご奉公だ!」と言われていますが、これでまた多くの子供が生まれ、幸せな家庭が増えていくことに結び付いていくことは言うまでもないと思います。

今後もこのテーマや内容に関しては、定期的にインタビューをさせて頂こうと思っております。

岡田先生、研究員の中田さん、お忙しい中、取材に応じて頂きありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

<関連サイト>

獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター
https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/repro/index.html

みらい生命研究所
https://miraiseimei.co.jp/

みらい生命研究所 精子バンク
https://spermbank.jp/

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