なぜ品川に第三のクリニックを作ったのか?~浅田レディースクリニック 浅田院長先生インタビュー

今回は、日本の生殖医療を牽引し、今年の5月に勝川・名古屋に続く第3のクリニックを品川に開院された、浅田レディースクリニックの浅田院長先生にお話をお伺いいたしました。

妊娠出産に導くため様々な努力をされている浅田院長先生の元には、志を同じくされたドクターやエンブリオロジストをはじめとしたスタッフが数多く集まっています。

高い妊娠率を誇るために、どのような工夫をされているのか?そして今回、品川に新たなクリニックを作られた意図についてもお話しいただきました。

それでは、貴重なインタビューをどうぞご覧ください。

なぜ、東京にこのような大きなクリニックを作ろうと思われたのですか?

一番は、東京で浅田レディースクリニックの生殖医療が受けられる環境を作るということですね。患者さんに転勤や引越しがあったとしても、治療を受けることができるようにするためです。

その背景には、患者さんから「東京で良いクリニックはありませんか?」と尋ねられたときに、当院と同じことを行なっているクリニックはないので、その問いに十分答えられないということがあります。

他の先生が、どういった気持ちでどのように治療をされているのかわからないので、紹介先を選ぶことができないのですが、そのことに対して不満を抱かれている投書も少なからずありました。

ただ、私の中では一番のことをやることは当たり前なので、当院よりもこういった良いところがあるよと言えるのであれば、当然、当院でも行なっているわけです。どこか紹介して欲しいということは、同じことをしているクリニックはいくらでもあるだろうと思われているのかもしれませんが、やはり、そこは違いますよね。

その上で、東京在住にも関わらず、わざわざ名古屋まで来てくださる患者さんもいらっしゃいます。それはやはり、東京での治療に不満があって来るのだと思いますので、東京にいる方がもっと近くで受診できるよう選択肢が広がればいいと感じ、開院することにしました。

また、現在、生殖医療は独自にいろいろな流派で発展を遂げ、玉石混交となっています。

ビジネスの一環として取り組んでいるような施設もある中で、我々のように大学で研究をし、生殖医療に携わってきた者にとっては、ビジネス的な治療をされていることで患者さんに不利益があってはならないと考えています。

加えて、日本の情報は全て東京中心というところがありますよね。
新聞やテレビなども東京でやっていることが正しい、進んでいるという風潮がありますし、それは生殖医療の分野でも感じられます。学会等であっても、地方まで情報や役割がまわってこないということも珍しくありません。

我々が同じことをやっていたとしても、東京へ進出することで世間の受け取られ方が違うのではないかというところがありましたので、情報発信という観点からも東京という土地は必要だと実感していました。

引退まで何年できるかわかりませんが、志を同じくし、生殖医療をビジネスや美容外科とは一線を画して取り組んで行くようなドクターや胚培養士、その他のスタッフを育てていきたいと思っています。そして、何年か先にそれが花開いていけばいいですね。

 

ドクターやスタッフを育てていくことにも、注力を注がれているのですね。

最近では新しく来たドクターに対して、「うちに数年だけ在籍して、わかったような顔をして開業するような人は受け入れないよ」と話しています。

最低でも3年間はしっかりと学んだ上で上級医となり、今度は新しく入ってくるドクターに教えることができて、5、6年経ってから地元に帰って開業したいというドクターがいれば、エンブリオロジストも含めて支援していこうと思っています。

やはり、いい加減なことをしているところは、淘汰されていくべきと思いますね。

最終的には、世界の中で日本の生殖医療はやっぱりすごいね、いい成績出しているねと言われるようにしていきたいと思っています。

東京の中でも、なぜ品川を選ばれたのでしょうか?

東京駅付近のビルも見に行ったのですが、東京駅から近いといっても駅から15分くらいは歩きますよね。実際に自分で歩いてみて、いいビルかもしれないけれど仕事帰りに来るのは辛いだろうなというところがあって。

そんな中、たまたま名古屋関連の企業が持っていたビルが品川駅近くにありました。ただ、ここはオフィスのみでクリニックは入れないと言われてしまったのですが、一生懸命説明して承諾を頂いたという経緯があります。入居できるという話になった時は本当に願ったり叶ったりで、これ以上の場所はないと思いましたね。

不動産というのは、人との出会いと同じくらい重要です。
今回、看板に関してもちょうど品川駅から見て、ビルの真ん中のところにスペースが空いていました。これは決して、意図したわけではなく、偶然で不思議なくらいラッキーな出来事でした。

品川にしたもう一つの理由は、名古屋から90分で行けるので馴染みがあるという点です。
さらに、2027年にリニアが通れば40分でいけますので、そうなると名古屋と品川は直結の街になります。だから、東京の中でも品川は特別ですし、私の中では親しみやすさがありましたね。

名古屋駅前のロータリーにあるビルで開院した時も感激しましたが、それと同じくらい品川のビルで開院できたらすごいなと思っていました。

 

品川クリニックを作られるにあたり、最も大変だったことは何でしょうか。

クリーンルームの設計に関して、難しいからと断れられたことがあります。それを小さな会社の技術の方が引き受けてくださったのですが、体調を崩してしまって設計が完成する前に頓挫してしまいました。

クリーンルームでは空調が非常に難しいところなのですが、それを竹中工務店が引き継いでくれ、結果的にはほとんど滞りなく進めることができました。ほかと比べたら1ヶ月半くらいはLabの完成が遅れていますが、誠実に対応してもらいましたね。

トータルとしては、非常に短期間で話がどんどん進んでいき、ビルの対応もすごく良く、最高のロケーションで最高のビルに巡り合ったと思っています。

今回のクリニックにおいて、最大の特徴はどのようなところでしょうか?

東京だから新しく何かをやろう、といったことは考えていません。
私が今まで信じてきたことをやっていくつもりですし、それは完成したものではなく、常に継続して改善していくということの治療方針に変更はありません。

ただ、新しいクリニックになるので、これまで取り組もうと思っていたカルテ本体の電子化はこの時点でやろうと考えています。できるだけペーパーレス化し、その上で色々な取り組みをしていこうと思っています。

 

新しい試みなどがあれば、お聞かせください。

スタッフも限られた時間の中で一生懸命やっていますので、できるだけ効率よく時間短縮になることは取り入れていきたいと思っています。その上で、今までやってきた医療の延長線上をやっていくことが大切だということも、スタッフに伝えています。

品川クリニックでは、ペーパーレス化して無駄なことを省き、より高度な完成された形の業務が滞りなくできるような姿を追求し、半年後など落ち着いた頃に今度は、名古屋や勝川に逆輸入する形で電子化を取り入れていくつもりです。

また、アプリについても計画しています。
患者さんになった時点でアプリをダウンロードしていただき、そこからいろいろな情報を取得し、予約も可能にする予定です。今は、メールで受精卵の数などを送っているのですが、将来的にはタイムラプスで自分の卵にアクセスし、実際に卵を見ることができるというイメージまで広げています。

もちろん、患者さんになる前の段階でクリニックの情報やコンテンツの確認、当院が取り組んでいることのエビデンスや論文、学会発表なども見ることができるようにしたいですね。HPよりももう少し気軽に、そして進化した形にしたいと思っています。

Labについて、こだわった点をお聞かせください。

Labは、日本一というか世界一のLabになるかと思います。
品川付近を歩くと人がとても多いので、こちらに来てホッとして治療のことが考えられる雰囲気を作り出したいですね。

そのため、品川クリニックでは、都会の雑踏の中でオアシスになれるような、そして生命という温かみのある息吹が感じられるような施設にすることをコンセプトにしています。私自身が好きな緑も多く使われていますので、仕事帰りに、あるいは仕事の途中に来たとしても、ここにくるとホッとするよねと思えるようなイメージで作り上げています。

 

他院との連携についても考えていらっしゃるのですか?

当院に来られる患者さんの中には、妊娠前や不妊治療に少し取り組んでいた、あるいは子宮外妊娠や流産したといった方もいらっしゃると思うので、他院との連携は当然必要になってくると思います。

とはいえ、名古屋に比べると都内には大学や病院、クリニックも数多くありますので、東京にいらっしゃる先生から情報収集しながら結果的には広いネットワークが構築できればいいですね。

 

品川クリニックでは、どのような患者さんを想定していらっしゃいますか?

おそらく、今まで治療して結果の出なかった高齢の方や、簡易の体外受精や自然周期で取り組んでいた方が患者さんとしていらっしゃるのではないかと考えています。

そのため、説明会においても、「卵巣予備能が高ければ、何度も採卵するのではなく、一度に採卵して出来るだけたくさんの受精卵を凍結しておく」という、当院のこだわりを明言します。こうすることで、2人目や3人目を希望された場合であっても、一度の採卵で凍結しておいた受精卵を使うことができますので。

また、凍結しておけば、その時点で卵子の老化は止まりますので、後の人生設計がより簡単に、作戦も取りやすくなりますよね。

これは、がんと妊孕性の問題として卵子を凍結する場合も同じで、できるだけたくさんの数の卵子を凍結しておかなければ結果的に赤ちゃんまで結びつかないことがわかっています。その確率を高めるためにも、多くの成熟した卵子をとり、受精卵をできる限り残すことが一番の作戦になります。

ただ、この方法は、高齢で卵巣予備能が低い場合は難しいので、その場合は止むを得ず簡易の体外受精にならざるを得ないですね。そういった方含め、卵巣予備能の年齢に合わせて、一番妊娠に近いものを選択していくということに代わりはありません。

今回、インキュベーターを共同開発されていますが、こういった取り組みは今後も力を入れていかれるのでしょうか。

そうですね。
培養液や培養器、そして体外受精を含めたいろいろな技術は海外で始まったように言われていますが、元々は日本で生まれた技術が多くあります。

しかし、現在は培養器も含めて輸入中心となっています。それが悪いわけではないのですが、海外ではベンチャーとして登場した企業が買い取られて、大きな会社がどんどんより大きくなるということが繰り返されています。そうなると、今までは代理店制度で取り扱っていた日本の企業が、ある日突然、代理店を外れるという事態も考えられます。

我々もユーザーの一員ですので、その中で優れたものについて安定した供給を受けなければ、きちんとした生殖医療を提供することができません。それを実現するためには、企業買収やいろいろな事柄に晒されない国内企業に安定供給してもらうということがとても大事だと思っています。

やはり、小さな市場ということもあり、誰かがやってくれるのを待つだけでは進みませんので、自分たちである程度追求していかなければなりません。結果的に、自分たちで良い企業に頼み、本当に使いやすいものを一緒に作っていくという姿勢にならざるを得ないですね。

とはいえ、昔はインキュベーターを改良し、培養液も自分たちで作っていた時代がありましたので、自前に近い形で安定供給を図り、そのための努力は惜しみません。

 

海外との連携は考えていらっしゃいますか?

海外との連携は、正直なところまだ考えていないですね。ただ、海外から当院の医療を受けたいという患者さんは、これまでも制度の範囲内で受け入れてきました。

以前、中国からの患者さんを受け入れてほしいとの要望があり、同意書を中国語に直したこともありましたが、3.11の地震の後に音信不通になってしまいまして。その辺りの信頼関係ができるようで、なおかつ、当院にキャパシティがあれば治療していくこともできるのかとは思っています。

そういった意味でも、当院で取り組んでいるフリーズ・オールやルトラールに関する治療など特徴的な部分に関しては、英語の論文で世界に示しておかなければならないと感じています。やはり、今は学会発表よりも世界に後世まで残る英語の論文がどれだけあるかというところが本当の業績になるかと思うので、そこに力を入れていきたいですね。

今後のビジョンについてお聞かせください。

現在、当院のロゴがART JAPANと表記されていますが、日本を代表する一大グループとして、どれだけのドクター、エンブリオロジストを育てることができるかというところに重きをおいています。

そして、志を同じくし、それぞれの地域で開業したいという人を支援しながら連携しけるようなグループにしていきたいと思っています。
これが日本の標準である、と思われるような組織に発展していって欲しいですね。

これからは、クリニックも需要と供給によって淘汰されてくると思いますし、いい加減なことをしてお金儲けだけを考えているようなところであれば、患者さんも離れていくのは当然だと思っています。

 

最後に、メッセージがあればお願いします。

患者さんの受け入れをしていて非常に感じるのは、しっかりとした生殖医療を受けられていないということですね。スタートの時点で卵管造影もせずに、人工授精や自然周期での採卵を繰り返しているケースなどが見受けられます。

移植もできずにそのまま治療をやめてしまうケースもあり、きちんとした生殖医療を提供して妊娠できていたなら、その人の人生は変わったものになったのだろうと感じることも多々あります。

不妊治療の選択というのは家族形成そのものの選択であり、引いていえば人生の選択だと言えます。そのため、職業を選ぶ、結婚相手を選ぶことと同じくらいの重みがあり、どこでどんな治療を受けるのかということは人生設計の上で非常に重要な部分です。

クリニックは、その人の人生を左右するようなことをしているのだから、もっと責任を持って治療にあたらなければならないですよね。
何年も通って結局、子供ができないということがあれば、クリニックは反省しなければならないと思っています。当院でも、必ず結果が出せるわけではありませんが、そのための努力をしているかどうかが大切ではないでしょうか。

<まとめ>
現在の生殖医療についてのお考えやこれからのビジョンなど、幅広いお話をお伺いすることができました。

妊娠という結果を出すことで、一人でも多くの患者さんに喜びを味わって欲しいという思いやそのための取り組みなど、日本の生殖医療のその先をいく取り組みには驚かされることばかりです。

浅田院長先生、お忙しい中お時間を頂戴しありがとうございます。
この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 

<参考サイト>
浅田レディースクリニック
http://ivf-asada.jp

浅田レディース品川クリニック
http://shinagawa-asada.jp

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ページ上部へ戻る