ニュースで出ていた「不妊治療の新たな治療法」ってどんな治療なの? ~ミオ・ファティリティ・クリニック 見尾院長先生インタビュー
コロナ禍でとかく暗い医療の世界ですが、先日、NHKで明るいニュースが放映されました。それが今回の見尾先生のニュースです。
不妊に新たな治療法 2組が妊娠に成功 鳥取 米子のクリニック
卵子の老化などで体外受精をくり返しても不妊治療が成功しない場合、受精卵の周りを覆う「透明帯」と呼ばれるタンパク質の層を除去する治療法が有効で、すでに夫婦2組が妊娠に成功したことなどを鳥取県内の不妊治療専門のクリニックが明らかにしました。
そこで、今回、見尾先生ご本人にインタビューをお願いしたところ、ご快諾頂きました。
体外受精を行っているものの、なかなか結果が出ない方に一つオプションとなりうるお話だと思います。
ぜひご覧ください。
今回の発見につながったきっかけについて教えてください。
2年ほど前になりますが、非常に難しい症例があって、そこから妊娠できたということがあり、私にとって非常に大きなインパクトを与えました。
その方は他院で未熟卵ばかりだと言われ、地元がこちらだったので紹介状を持って来院されました。こちらでも採卵したところ全く同じ状態で、いわゆる透明帯と卵の間の隙間が全くなく、受精はするのですが、その卵子はちゃんと育たない。
それを何度か繰り返しているうち、自然に透明帯の一部が欠けている卵が、たまたま透明帯の外側に胚盤胞を作ったものがあったのです。
それを子宮に戻したところ、妊娠したというのが始まりになります。
透明帯が重要だったということですね。
その症例から、透明帯が分割を邪魔しているのではないかと推測しました。そうこうしているうちに、海外論文の中に透明帯と卵細胞の中に糸状の構造物があるという論文をスタッフが見つけたので、それを切ったらどうなるのだろうという議論になり、基礎検討を行うことになりました。
私が心配していたのは、透明帯を外してしまうと割球がバラバラになってしまうのではないかということです。しかし、実際に外してみると、2細胞や4細胞であっても割球同士はつながってバラバラにならないということがわかりました。
これは透明帯がなくても培養液の中であれば育つということを示しており、明らかにフラグメントが減るということもわかりました。
透明帯について、他にお気づきになられた点はありますか?
最近、また気づいたことがあります。劣化する時というのは何でもそうですが、中心から始まるのではなく外側から傷んでいきます。おそらく、卵が劣化する年齢や環境要因にもよるのでしょうが、最初に影響を受けるのは卵の周りの卵丘細胞ですし、透明帯です。
そう考えていくと、ある程度の劣化が始まった卵というのは、相当数が卵と細胞の間にスペースがない、くっついていたとしても糸状の構造物が残っていて伸び縮みができず、細胞分裂がしにくいという状態です。そして当然、そこには物理的に穴が空いてしまい、結果的にフラグメントの発生につながって卵の質を下げてしまうことになるのです。
今までは42、43歳が妊娠の限界と言われていましたが、外側の透明帯にくっついていることによって受精はするけれども綺麗な胚に育たないという場合は、それを外してあげることで、年齢が高くても卵の細胞質自体が傷んでいないケースなら成功するかもしれないと考えています。
例えば、染色体に数的な異常が増えるというのは、細胞質の中で起こることなのでどうにもならない話だと思いますが、フラグメントで形が正常でないという場合は臨床でも多く見られ、今回の方法が有効かもしれないと感じています。
この方法で胚盤胞まで育て治療に使うことで、救える卵もあるのではないでしょうか。
これは、かなり手間のかかる技術なのでしょうか。
倒立顕微鏡にいわゆる、コントラストをつけた立体感のある画像が得られる装置をつけています。解像度がとても高く、透明帯と卵細胞の膜のところがよくわかるので、割と簡単にできるのですが、画像が不鮮明の場合は卵細胞が壊れてしまいます。
技術的、装置的な問題もありますが、透明帯と細胞膜がくっついているかどうかは浸透圧を利用して確認するので、ある程度熟練し、アシステッドハッチングを問題なくこなせる培養士であれば結構簡単にできるかもしれません。
時間にすると5分程度でしょうか。ワンステップ加えるだけで卵を救えるケースが出てくるというのは、患者さんにとってメリットが大きいと思います。私たちは現時点で、それをコストとして考えてはいないのですが、これがIVFやICSIのような操作に並ぶものであれば価格設定しやすいですよね。
この技術は、私たちのところだけで独占しようとは考えていません。いろいろな施設で試し、その有効性をみんなで確認をするという作業が良いと考えています。
まとめ
今回の治療法については、見尾先生と胚培養士の方々のひらめきと調査と検証で発見できたものだと伺いました。不妊治療の場合、その治療はチーム医療となります。
医師、看護師、心理士、胚培養士が協力し、一人の患者さんの不妊治療を様々な方面から支えるのが仕事になります。
今回は医師と胚培養士の協力で今まで妊娠できなかったような症例でも妊娠に至ることが分かりました。
見尾先生ご自身は謙虚で、これはまだ始まりで、我々も検証を続けていかないといけないし、全国の先生方にもお伝えして、共に技術共有と切磋琢磨をしないといけないとのことメントでした。
不妊治療において、基礎研究的なことはよくニュースで出てきますが、今回のようにきちんと妊娠例に結び付くような発見は最近、見ることがなかったので、不妊治療の関係者も患者さんにも希望のある話題なのではないかと思います。これからも引き続き、見尾先生には継続的にお話を伺う予定です。
お忙しい中、インタビューにお答え頂いた見尾先生にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
<関連サイト>
ミオ・ファティリティ・クリニック
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