卵子提供プログラムをグローバル規模で展開するドクターにインタビューをしてみました!

このたび、世界中の方に卵子提供プログラムを提供されているCryocanクリニックのマルクス先生(Dr Markus Nitzschke)にインタビューを行うことが出来ました。

ご存知の通り、日本では不妊治療に関する法律やガイドラインが存在しないので、患者さん達はインターネットなどの情報を元に、自分達の求める治療を探して右往左往されている状態です。

精子提供、卵子提供、代理母出産などはごく一部の医療機関が独自の基準や取り決めで運用しているにすぎません。一方、卵子提供においては多くの方々が日本での治療をあきらめて、自分で情報を探して、ハワイやアメリカや台湾に渡航し、治療を受けておられる現実があります。

それらの情報をきちんと現場のドクターに聞いてみることが大事だということで今回はグローバルで卵子提供プログラムをサポートされているマルクス先生にインタビューをさせて頂きました。

それでは、インタビュー内容をどうぞ!

 

マルクス先生です

 

●ドクターになられたきっかけについて教えてください

祖父が外科医、父が整形外科医で、将来医師になることが普通に目の前にある環境だったからです。

 

●なぜ、産婦人科を選ばれたのでしょうか

ヨーロッパでは大学生の交換留学のシステムが一般的にありますが、それを利用してスペインの大学でIVFをされている先生のところで教えを受ける機会があり、そこですっかり目覚めてしまいました。興味が湧き、そこから不妊治療のスペシャリストになろうと決めました。

通常、不妊治療の専門家になろうと考えた場合、まずは産婦人科専門の勉強を5年間、その後に生殖補助医療の勉強を3年間することになるのですが、私の場合は当初から生殖補助医療に興味があったので、産婦人科のトレーニング初日から生殖補助医療のプログラムが組み込まれているところを選びました。

 

●卵子提供に取り組み始めたきっかけについて教えてください

2008年に、バルセロナで開催されたヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)で先進国における体外受精というセッションに参加をした時に、初めて低刺激や自然周期による体外受精の方法について聞くチャンスに恵まれ、とても感動したことがきっかけです。

それについて学ぶためにスイスの大学へ行き結果的に本も出版したのですが、ヨーロッパでは一般的な方法ではなかったので、トレーニングをしてもらえないかという問い合わせがたくさん入ってくるようになりました。

世界各地へ行く機会が増え、ネパールやインドへ行った際にドナーが頻繁に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になり困っているという話を聞きました。一度、卵子を提供した後、二度としたくないという状態でしたので、卵子提供をしているクリニックのプロトコルを見直すことにしました。

ごく普通の卵巣刺激ではありましたが、トリガーとなる注射の種類をアゴニストにすることでOHSSを0%にすることができ、その後は一度卵子提供した人が再び、ドナーとして戻ってきてくれるようになりました。

卵子提供に関する仕事をインドとやネパールで行うことで、アジアにも目を向けるきっかけとなり、結果的に卵子提供が禁止されている国がまだまだ多いということに気がつきました。

ものすごくチャレンジングなことですが、卵子提供において経験を積んでいるドクターが携わることで、より多くの患者さんのサポートをすることができるという思いから卵子提供にフォーカスするようになりました。

日本では低刺激や自然周期にあまり良い印象がないことは知っています。そのため、最高でも35歳までの女性を対象にこの方法を選択しています。高齢の患者さんに行っても効果がないですし、若い患者さんに施すことで薬代を抑えられるというメリットがあります。

卵子提供については最初からプランしていたわけではなく、自然周期や低刺激で行う体外受精に興味があったことで偶然が重なったわけです。チャレンジングなことではありますが、患者さんから妊娠報告をもらうと本当にやっていて良かったと思います。

 

 

●最初に卵子提供の面白さを感じたのは、どこの施設でしょうか?

卵子提供に興味を持つきっかけになったのは、EUGINクリニック(スペインバロセロナ)です。

そこでは、卵子提供と精子提供という専門の治療にフォーカスをしてクリニックを大きくしてきました。国によってサービスをカスタマイズし、ドイツ人であればそこがドイツのクリニックへと変わり、フランス人であればフランス、日本人であれば日本語の書類があり、全て日本語で治療が受けられるといったように何ヶ国語もカバーしているのはとても魅力的でした。

これから私たちが取り組んでいきたいプロジェクトも同じですが、一つだけ違う点があります。それは、私たちの場合はいくつものナショナリティということではなく、日本人の患者さんが来た時にまるで日本に来たように快適な治療が受けられる、そんな最高のソリューションを提供できる場所を作っていこうと思っています。

 

●なぜ、ドイツ出身でありながらスペインで働き、さらにスペインの離島に暮らしているのでしょうか。

かつてスペインを訪れたのは、交換留学生としての1年だけであり、ほとんどの勉強はドイツとフランスで行なっていました。生殖補助医療の専門課程については、スイスとスペインになります。

なので、私が今スペインで働いているのはEUGINクリニックの影響が大きいですね。

私がカナリア諸島に住んでいるのは、個人的な理由です。家族にとって安全で住み心地の良い場所、子育てをするのに適した場所を探している時に出会いました。私の仕事のスタイルは、常に世界のあちこちを飛び回っているので、空港があればどこにでも住むことができます。そのため、安全で気候が良い、子育てしやすい環境を望んでいました。

実際にカナリア諸島に住んでみると、私にとっては不便です。どこかへ行こうとした場合には、まずマドリードかバルセロナに3時間かけて飛んでいかなくてはいけません。逆に面倒ではありますが、家族と子供のために選びました。しかし、来年はバルセロナに自身のクリニックをオープンする予定なので、そちらへの引越しも考えています。

 

●世界中に拠点を作っているのは、なぜでしょうか

たくさんの拠点を持っている理由は、患者さんに選んでもらえる環境を作るためです。

例えば、アメリカに住んでいる患者さんであればアメリカ国内で治療する方が楽ですし、アジアであればヨーロッパに来るよりもアジアで治療できた方がいいと考えています。患者さんにとって、快適で便利な場所を選んでもらえるように、少なくとも拠点はアメリカ、ヨーロッパ、アジアの3つは必要だと思っています。

そして理由のもう一つは、クリニックの場所によって適用される法律が異なることです。このため、世界各地に拠点があることで、患者様に必要な治療ごとに治療を進める場所の提案をすることができます。

現在、当院ではバルセロナ(スペイン)、クアラルンプール(マレーシア)そしてロサンゼルス(アメリカ)の3箇所に提携クリニックがあり、近日中にモスクワにも拠点が増える予定です。

 

 

●日本人を取り巻く卵子提供の環境について教えてください

卵子提供は台湾やタイ、アメリカ、ハワイでも行われていますが、中でも台湾は日本から近いことと日本人に顔立ちが似たドナーがたくさんいることで人気があります。

とは言え、台湾ではドナーを選ぶことができず、卵子提供は一人一回しかできないのに対し、スペインではすでに妊娠をしたドナーは認定ドナーのような形で知ることができるので、その卵子が妊娠しやすいかどうか事前に把握することができます。

ハワイも人気があり、こちらは日本人のドナーも選べますし、豊富にいるのですが、とにかく治療費が高いのが特徴です。その中でも、私たちは台湾とハワイの良いところをミックスし、価格も抑えた条件で治療を提案することができると考えています。

 

●クリニックとしての特徴をお聞かせください

クリニックの機能に加えて、プラスアルファの付加価値を持たせています。

その1つ目は、他国でできる治療の提供ができることです。
例えば、VIPの患者さんの特別な希望があった場合は、それに合わせて治療をアレンジすることができます。出産が必要な方にはアメリカやロシアでのコーディネートができますし、ドナーに欠かせないバックグラウンドがあれば、時間はかかるかもしれませんがアレンジすることも可能です。

2つ目は、世界的にドナーがいるのでその人が希望するドナーを探すことができるネットワークがあることです。

そして、3つ目は世界中の不妊治療に関する法律を把握しているので、どの国でどの治療を行うことができるのか、できないことも含めてしっかりと把握していることです。世界中のあちこちにパートナーとなるクリニックがあり、クリニックでありながらエージェンシーのような役割を果たしています。

エージェンシーというと、中間搾取のようなあまり良くない印象を持たれがちですが、私たちはそういうことはせずに仲介料も発生しないので一般的なエージェントとはコンセプトが違うと思っていただいた方がいいかもしれません。

 

●このクリニックでの培養士は、どのような仕事をしているのでしょうか

通常のクリニックと同じように、専門的な知識のある仕事をしていますが、例えばロシアで治療したい患者さんがいれば私たちのチームがロシアまで行って提携先のクリニックで治療を行うことになります。

そこには、地元のドクターや培養士もいますが、直々にトレーニングしたスタッフがコーディネートする体制を整えています。もちろん、対象となる国が異なっても同じです。

確かに、患者さんが一人だけの時は医師や看護師、培養士をその場所へ送るとコストがかかるので、ある程度スケジュールを調整はしていますが、中国からの患者さんがとても多いのでたった一人のためにということは殆どありません。

 

 

●今後、取り組みたいと考えていることがあればお聞かせください

日本でできない検査や治療、特にいま研究途上のものに触れるつもりはありません。それらは、まだ研究段階であって確かなものではないですし、そこで生まれてくるお子さんが本当に健康な状態であるかどうかは、研究を続けていかないとわかりません。

そのため、私は卵子提供と代理母出産、この2つを軸に提供していきたいと考えています。長年、治療の実績が世界各国でありますし、治療の結果もわかっていますので、これらにフォーカスしていこうと思います。

 

<まとめ>
今回のお話はいかがだったでしょうか?
聞いたことのない情報も多かったのではないかと思います。卵子提供や代理母出産についての情報はなかなかフラットな情報を得ることが難しい面もあるので、興味があっても深く踏み込んで知ることは困難かと思います。

今回、マルクス先生にも色々とお話を伺いましたが、1つ1つ真摯に答えて頂き、まじめで志がある先生だなと感じました。このテーマはまだまだ奥深いものがあるので、改めてマルクス先生に取材を申し込みたいと思っております。

私としては2020年、日本国外の医療機関にも訪問し、どのような仕組みや施設、サポート体制になっているのかをこの目で確認したいなと思っている今日この頃です。

<この記事は2019年11月に取材されたものです>

●関連サイト

Cryocan
https://cryocanjp.com/

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著者:池上文尋(妊娠力向上委員会編集長)

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