産婦人科クリニックさくら 桜井明弘院長先生インタビュー
今回は、神奈川県横浜市、東急田園都市線のたまプラーザ駅から徒歩2分の位置に開業されている産婦人科クリニックさくらの桜井明弘院長先生にお話をお伺いしました。
今年の1月に移転されたばかりの院内は清潔感にあふれており、患者さんにとっても非常に居心地の良い空間づくりをされています。
桜井先生といえば、診察の傍ら、女性のQOL向上や妊娠しやすいカラダ作りに主眼をおいた「子宮美人化計画」に関わる活動や、著書「あなたが33歳をすぎて妊娠できない44の理由」を執筆されるなど、幅広く活躍されており、そのバイタリティに満ちた行動の裏側も垣間見えるような、貴重なインタビューとなりました。それでは、気になる内容をどうぞ!
●開業して10年経ってから移転されましたが、きっかけを教えてください。
手狭になったからですね。患者さんも増えて、待合室も狭くなっていました。そのため、当初考えていた設計と異なり、動線ひとつひとつが狭く、スタッフが行き違うときもお尻を向け合いながら、という状態でした。
それを改善したかった、というところが本音ですね。培養室も以前の施設ですと、それ以上の拡張はできませんでした。
今後、患者さんが増えるかどうかわかりませんが、増えたときに対応できるよう培養室も前回の倍ほどの広さにしています。タンク室も専用のものを作りましたし、採卵や胚移植も手術室仕様の設備にしています。
●移転されてからまだ日が浅いですが、患者さんやスタッフの反応はどうですか?
おそらく、新しい患者さんの数自体はあまり変わっていないと思います。
移転の最大のデメリットというのは、たとえ移転場所が近かったとしても、前回の場所は空っぽなのでクリニック自体がなくなってしまったと思う人が必ずいるだろうということですよね。移転が決定した、昨年の6、7月からはアナウンスをしていましたが、それ以前、例えば3、4年前に来院されていた方などを失っている可能性はあります。
とはいえ、来てくれた患者さんは新しい施設なので、揃って喜んでくれています。スタッフについては、動線が全然違うこともあって最初はとまどっていましたね。ですが、より良くしようと色々、提案してくれています。
例えば、最初はベッドルームにしようと作った部屋があるのですが、やはり更衣室にしよう、いやいや、リクライニングを2つ並べて採卵後の安静室にしようと試行錯誤して結局、動いてみるとニーズはそこではなく、患者さんと対面式で話せる空間が必要だということに落ち着きました。そういった部分はスタッフ発の考えが生かされていますね。
●10年を振り返って、開業当初に思い描いていたことと相違などはありましたか?
10年はあっという間でしたね。勤務医のときは、ひとつのところに長くても5年弱でしたので、こんなに長く勤務したことはありませんでした。
思い描いているものというのは日々変わりますが、自分がやりたかったことは、ほぼ達成できているかなと思います。
実は、卵子凍結を大々的に行おうと考えていた時期がありました。法的規制もありませんでしたし、女性の高齢化による不妊症がとにかく増えていましたので、それに歯止めをかけるには卵子凍結をしておくしかないと感じていましたので。
それに、アップル社など海外では、卵子凍結をする社員への助成や補助をしている企業もあるということを知り、これからは卵子凍結が注目されるのではないかとも思っていました。
その矢先、浦安市にある順天堂大学医学部付属病院では卵子凍結を行い、自治体が助成金を出すようになりました。しかし、日本とは文化が違うからか、患者さんも思ったより増えていないですし、何より全国的にどのくらい行われているかどう実態も把握できていません。クライアント側の考え方と、私たちが良かれと思って考えているものが合致しない典型例なのかもしれないですね。
本当は、結婚前から女性の卵を預かっておけば、良い医療になり得るのではないだろうかと思っていました。でも実際、現時点で全く子供を考えていない人が、果たして数十万のお金を出すかといえば、それは現実離れしていますよね。
卵子凍結は、生殖医療だけではなく、ウィメンズヘルスという意味からいけばアリだと思いますし、特に、こういった高度生殖医療ができる施設でなければ提供してあげられるサービスではありません。決して、儲け事業ではなく、一人でも多くの卵を預かり、一人でも多くの人が将来、後悔しないために必要だと考えていましたが、日本の風土など色々考えるとまだそういう時期ではなかったのだろうと感じています。
これが私の中で唯一といっていいくらい、実現せずに撤退したことになりますね。
●次の10年に向けて、考えていらっしゃることはありますか?
それほど壮大なことは考えていなくて、移転は狭いところから広いところへ、より患者さんの快適な空間を作ろうとして行ったことです。
改めてこれからについて考えてみると、当院では生殖医療とウィメンズヘルスが2本柱でやっているので、生殖医療については、今度も一人でも多くの妊娠する人を増やす、妊娠率を少しでも高める努力をしていきたいですね。
ウィメンズヘルスのほうでは、3人の女性医師が診察をしていますので、患者さんをあまりお待たせせずに診てあげられますし、まだ患者さんが増えても対応する余裕があると思っています。
●クリニックも移転して広くなりましたので、今後は体外受精や顕微授精にもさらに力を入れていかれるのでしょうか?
そうですね。患者さんはクリニックが受け入れることができる半分程度に留まっているので、まだ受け入れることができますね。
ただ、おかげさまで治療成績は上がっていて、約7割の方が1回の胚移植で妊娠、出産にいたっています。移植回数が3回までの方を切り取ってみると、妊娠率は9割になっていますので、複数回に渡って通院される患者さん自体はそれほど増えていないのが実情ですね。それがやがて、口コミとして広まっていけばいいかなと思っています。
不妊の原因は、卵管因子や男性因子、原因不明の場合など色々あります。これまでのタイミング法や、人工授精を行っても何かしら決定的にできない因子があったということもありますが、そういった方が1回の胚移植で終わるということは当院のクオリティが高いのではないかと感じています。
初回の胚移植で、または1、2回プラスして妊娠出産する方がいる一方で、5回や8回、10回も行うケースもあります。この方達は、卵巣機能が悪い、あるいは卵巣機能はいいけれども良い卵が得られない、卵が良くてもなぜか着床しないというART難治症例です。
そういった方々をなんとかしないといけないと感じています。年齢を巻き戻してあげることはできないので、サプリメントなど統合医療に期待をしていますね。
●現在、胚培養士は何人いらっしゃいますか?
今は3人ですね。これだけの成績を残せているということは、培養士のテクニックがあって成立するものだと思っています。
以前は2人ほど全くの未経験の培養士を雇用したことがありますが、うまくいきませんでした。他の医療技術職もそうですが、新人であればまだ技術面などは粗削りですよね。私たちも数年前までは新人を育てようと考えていたのですが、人を育てることは本当に大変ですし、さらに培養士になれる素質を見抜くことがとても難しかったですね。
本当は、専門学校などがあってくれればいいのかなと思っています。
培養士は現在、全国に2,000人ほどいますが、それを600の施設で取り合っている状態です。年齢が高くなると眼が見えにくくなり支障をきたすという難点も抱えているので、新人の培養士を育てるというところも必要ですよね。
●新薬を採用するときに、気をつけられている点はありますか?
新薬が出れば、積極的に先行して使っています。副作用は、製薬会社が発表しているものを信じていますし、理論的に、起こりうることはわかっていますからね。
ただ、それがわからなかったのが腟錠です。
自分たちで独自のものを作ったことがなかったので、腟錠がどのくらい優れたものなのか、患者さんにとって使いやすいものなのか、逆に不具合があるのかという辺りは未知数でした。
●腟錠は患者さんに受け入れられましたか?
今まで内服で行ってきた方に対して、いきなり腟錠を勧めるようなことはしませんでした。
というのは、腟錠のほうが、本当に成績が優れているのかを検証しなければ勧められないと思っていましたので。値段も高く、腟に入れるという煩わしさを考えたら、それを凌駕するだけの治療成績がなければいけませんからね。
だから、新規に始める人に対して説明をした上で腟錠を使っていました。そのせいか、それほど受け入れは悪くなかったですね。
ただ、二人目不妊など内服で一度成功している方については、再び一度移植する場合は内服薬にしています。一方で、今まで内服でも着床しなかった方には、腟錠に変えてみましょうと提案しています。
●現在のMRについて、先生はどうお感じになられていますか?
やはり、付き合い方が変わったのが、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会による接待についての自主規制からですよね。私はおんぶに抱っこという考えはなかったのですが、親しく付き合うには一緒に食事をしたりすることは必須なツールであるとは感じています。
2人きりで、昼間のクリニックではなく、別の場所へ行けば違う交流が生まれます。そうすると、こちらの考えをよく理解してくれますし、こちら側としても相手が何をしたいのかわかるようになれば、応援したくなりますよね。
ただ単に資料を持ってくるだけだと、本当に表面だけの付き合いになるのでただの営業と同じです。だから、今のMRを取り巻く規制が、私たちにとっても関係構築の足かせになっているのではないかとは思っています。
特に、薬は患者さんが使う薬なので、ただの商品ではありません。癒着はよくありませんが、薬を売る側、患者さんに使う側というのは、他の商品とは違った付き合い方をしてもいいのではないでしょうか。
本当は、自社製品の良いところだけではなく、他社に負けている点や治療成績で劣っている部分などが聞きたいですね。みなさん、うちが一番だということしか言いませんから。自社に有利な論文を紹介することは、営業として当たり前だとは思いますが、本音の部分が知りたいですよね。
例えば、車のディーラーのところへ行ったとします。ディーラー側としては、自分のところの車を買って欲しいですよね。でも、お客さんの乗り方やライフスタイルを考えたら、本当は隣のディーラーの別会社の車のほうが合っている、と言えるようなディーラーさんだったら信用できますし、長い付き合いになるのではないでしょうか。
私は、他社製品も含めたことを言えるような人が、本当の営業マンだと思います。
●先生は、子宮美人化計画に携わっていらっしゃいますが、今回の移転と何か関係する部分はあるのでしょうか?
移転して、ひとつセミナー室を作りました。当初は、患者さんや一般向けの、本当にセミナーをするためだけの部屋として考えていました。
しかし、そこで鍼灸をさせて欲しいという提案を受けてから話が急展開し、鍼灸や理学療法、アロマトリートメントやピラティスを日替わりで、患者さんへのサービスとして提供していく統合医療ルームへ発展させようと思っています。
私たちが統合医療ルームの各先生方と契約等を行うのは大変なので、一括して子宮美人化計画に事務作業を移管していく予定です。
統合医療ルームというのはあまり類を見ないかもしれません。しかし、ただ単に不妊治療、生殖医療を提供するだけではなく、体づくりや生活習慣というのは基本となる部分です。そういったところのお手伝いは、他の分野の方の力を借りないといけないのかな、と思っています。
●子宮美人化計画では、パーティやセミナー、資格の認定などをされていますが、今後の展望などをお聞かせください。
パーティについては、お金を儲けるようなものをやっているわけではないので、みなさんに喜んでもらって応援してもらえればいいと思っています。
子宮美人化計画は、女性のQOLというキーワードのものに異業種の人たちがいっぱい集まっているので、色々な人がいて面白いですからね。
セミナーについては、今年は不妊や20代のウィメンズヘルス、更年期の話など割と大きい会社などから依頼をいただいていますので、この活動は続けていきたいところです。
資格についてなのですが、これは当院の統合医療ルームと関係しています。
私自身としては、健康美容業界は医学知識に乏しい方が多いという印象を受けています。昨年、統合医療ルームに入った方達を対象にセミナーをしたのですが、これは、パートナーとして組むからには、子宮や卵巣、排卵などについて知識がない人に来てもらっても困ってしまうというところからきています。
もしかすると、「こういったことが辛い」「実は、お腹が痛い」といった医学情報に関わるようなことであっても、診察室では言えず、統合医療ルームで思わず本音を吐露することがあるかもしれません。
そういったとき、科学的な目を持たずに「ここをマッサージすれば治りますよ」というふうに対応するのではなく、「先生へ伝えなくてはダメですよ」といった当たり前のことができるようになって欲しい、という思いをこめて資格認定の講座を開いています。
医者が医療の現場で何を大切にしているのか、そして、大切にしていることのひとつがエビデンスだということ、科学的な解釈をすることがこれだけ大事だということを伝えています。
子宮美人化計画では、女性のQOLを考える研究会をこれまで2回行いました。初回は、妊娠出産に必要な栄養とAMHの話、2回目はオリンピックがあったので女性アスリートのQOLについてです。
参加してくださった方のみなさんは、「知らなかった」「面白かった」といってくださったので、この研究会は子宮美人化計画の一番のイベントと考え、真面目にアカデミックなことをやっていこうと思っています。
今年も8月末か9月頭くらいに行おうと考えています。テーマはまだ未定ですが、私が医療の現場で見ていて、困っているなということを取り上げていきます。
●先生は、ここ数年、栄養管理の面に力をいれていらっしゃいますが、サプリメントなどで患者さんの治療成績は上がっているのでしょうか?
効く人と聞かない人、それこそARTと同じで、すぐ良くなる人と全然よくならない人に大別される気がします。
実は、ようやくデータをまとめ始めているところで、まだはっきりしたことは言えないのですが、長い間がんばって使っていても一向によくならない人もいます。その方は多分、栄養では不妊を改善できないのだろうなと感じています。
ただ、データは非常に膨大な量なので、資料の精査などが難しいところですね。
私は、産後うつにあまり出会ったことはないのですが、メンタルの部分も栄養と関係しているのではないかと感じています。患者さん向けの栄養教室などがあってもいいかもしれませんね。
みなさん、自分がとっている食事を間違っていると思ってはおらず、良いと信じています。でも、それが偏っていたり、間違っているわけですから、もう一度そこを見直さなくてはいけないのではないでしょうか。
●最後に、これだけは伝えておきたいということがありますか?
不妊については、やはり、生活習慣を見直したほうがいいですね。
クロミッドがいいのだろうか、HMGがいいのだろうかと、みなさんは薬の情報を求めていらっしゃると思います。
それも大事ですが、不妊体質、不妊の生活習慣を改善することがまず大前提です。いつも話しているのは、生活習慣の改善が第一、その次がサプリメント、そして初めて、不妊治療だと思っているので、ベースとなる体づくりというところは忘れてはいけないところです。
そうは言われても、具体的にどうしたらいいのだろうと悩んでしまいますよね。生活習慣や栄養に関して参考になればと書いた本がありますので、良ければ手にとってみてください。
●まとめ
生殖医療とウィメンズヘルスの両輪があるからこそ、自然と活動の裾野が広がっていくのだと実感したインタビューとなりました。
不妊に必要なことは、生活習慣の改善やカラダ作りだと言われることは多いのですが、院内に新たに統合医療ルームを作り、色々と指南してくれる環境を整えようとされていることは、患者さんにとって非常にうれしい限りですよね。わかってはいても、自分でその環境に身をおくことは難しいですから。
クリニックの中で公開されている院長ブログや、子宮美人化計画のホームページからみることができるコラムはとても参考になるものばかりです。目からウロコのお話も多いので、参考にされてみてはいかがでしょうか。
桜井先生、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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