獨協医科大学越谷病院尿器科主任教授 岡田弘先生インタビュー

今回は、獨協医科大学越谷病院泌尿器科主任教授の岡田弘先生にお話を伺うことができました。

不妊の原因が、男女半々だと言われていますが、どうしても女性側の不妊ばかりに焦点が当たり、男性側の不妊については知識や治療を受けられる施設は限られています。しかし、男性不妊について積極的に取り組まれ、その分野を牽引しているのが岡田先生だといっても過言ではありません。

本日は、リプロダクションセンターのことも含めて貴重なお話を聞かせていただきました。
それでは、気になるインタビューの内容はこちらです!

泌尿器科学主任教授
リプロダクションセンター長 
岡田 弘先生です。

●ドクターになられたきっかけについてお聞かせください。

元々は、京大へ進み理論物理を専攻しようと考えていました。私は神戸高校の出身なのですが、学校の先生がほとんど京都大学出身だったということも関係していますね。高校の生徒も優秀な方ばかりで当時は、京都大学に40名ほど進学していました。今はもっと少ないようですが。

しかし、同じ志を持つもの同士で集まると、レベルが違って全く歯が立たない。周りが天才だらけでしたので、秀才では太刀打ちできる世界ではないと感じ、もう少しファジーな学問かなと思えた生物系に進もうと決めました。

リプロダクションセンターのある
新病棟は「Mirai Station」と
名付けられました。

●泌尿器科を選ばれた理由を教えてください。

本当は当初、内分泌内科へ進もうと考えていました。医学部を卒業後に筑波大学の内分泌内科に来ないか、と誘ってくれた方がいましたので。当時の筑波大学は、まだ卒業生がいませんでしたので、すぐにでも助手になれるということで、そちらに気持ちが傾いていました。

そして、医学部6年生のときにやっと2週間ほど筑波大学へ行く機会を設けることができたのですが、ちょうど大学ができたばかりです。そこへ行くのも大変でしたし、山の中に未来都市があるという印象でしたね。もちろん、コンビニはほとんどなく、21時になると食べ物を扱うお店もないという状態でした。

娯楽がないような研究施設の中で、筑波大学の先生方やスタッフの方々が勉強していたことを覚えています。

筑波大学で過ごしていく中で、次第に、私には合わないなと感じるようになりました。さらに、臓器移植をやりたいという気持ちもありましたので、筑波大学ではなく、知り合いがいた京都府立医大の泌尿器科または外科のどちらかへ進もうと考え直しました。

そして、やはり外科に進もうかと思案している中、いずれにしても母校の泌尿器科の教授のところへ挨拶だけはしておこうと伺ったときに、「腎移植をさせて欲しい」とお願いしたところ了承していただいたので、他には何も調べることもせずに泌尿器科へ行くことを決めました。

やがて、国家試験が終わり、結果が発表され医籍が登録された5月の連休明けに泌尿器科へ赴き、「移植をさせてもらえるので、こちらへ来ました」と自己紹介の中で話したところ、医局長の顔が曇りましてね。実は当時、そこで移植は行われていなかったのです。結局は、それから7年後に始まったのですが。

今後について迷っていたところ、自己紹介の挨拶からちょうど2日後、医局長に連れられるまま系列病院を訪れることになりました。お昼に到着してから6時間ほど手術が行われていたので参加したのですが、天才的にうまかったことを今でも覚えています。それを見て感動したことがきっかけで、手術をしっかりとやっていこうと決めました。

今、獨協大学越谷病院では
他にも新病棟を建築中です。

●獨協医科大学に来られたきっかけを教えてください。

以前は、帝京大学の泌尿器科にいました。本当は、そのままずっと帝京にいようと思っていたのですが、獨協医科大学越谷病院の教授選考に応募するように、当時の主任教授に勧められて、締め切りの一週間前に書類を提出したら運良く採用してもらったというところですね。

もちろん、しっかりと書類は作成し、それなりの筋は通していましたけれど。

こちらは帝京大学に比べると当時は小さい施設でしたが、いまはものすごく大きくなりました。患者さんの数も多いので、ベッドの稼働率は年間を通して98%といったところです。何と言っても、東武鉄道とJRの駅が隣接している地点に病院があると言う絶好の立地ですし、将来的には駅からつながって濡れずにここまでくることができると言う計画もあると聞いていますので、さらに便利になりますね。

リプロダクションセンター

●リプロダクションセンターは、どのような思いで作られたのでしょうか。

一番のコンセプトは、生殖医療全部をワンストップで診たいということでした。

泌尿器科だとどうしても精子や性機能のことばかりみていて、その精子がどういう形で使われていったのかということまでは把握していないですよね。

それでは良くないと感じていましたので、女性不妊と男性不妊お互いにどのように関わりどういう結果に終わっているのかということがつぶさにみることができることが大切だと思い、ここでは産婦人科医も一緒に男性不妊の手術へ入り、泌尿器科医も採卵を手伝っています。そういう環境でなければ、本当の生殖医療はわからないですからね。

それと、真の生殖医療医を育成したいという思いが、ずっと以前からありました。

ここは大学病院になりますので、教育が基本になります。ですから、外部から半年や一年という単位で人を受け入れ、トレーニングを積んでもらっています。

女性に関してそういった施設はたくさんあるかと思いますが、男性に関してはあまりないですよね。男性について多数症例でトレーニングができる場所は、恐らくここくらいではないでしょうか。

一年間いてもらえれば、TESEを約150〜200件経験することができます。100件ほど行えば上手になりますから、半年位で大概の教科書に書いてあるような症例は網羅できると思います。一年もいれば、本当に難しい症例まで診ることができますね。

ただ数をこなすばかりで、それぞれの症例の背景にある病態そのものの解説してあげない限り、絶対に理解はできません。医学は実学のところがありますからね。生の患者さんを診ることが必要不可欠です。しかしこれを実践できる施設が極端に不足していると感じていますし、しっかりトレーニングされていないから様々な見逃しもあり、患者さんのためにもなっていないと思っています。

そういう考えがありましたので、両方診ることができる施設を作ることにしました。

受付の様子です。

●大学で男女の生殖を診ることができる施設を作ることは、相当難しかったのではないでしょうか。

クリニックであれば個人の権限と責任で事を運ぶことが出来るのである意味簡単なのですが、大学の中で作ることに大きな意味があると思います。やはり教育は、学問を学ぶにふさわしい場所でなければできません。そのためには、大学の理解も必要となってきます。

また、医師も含めて専任専従でなくてはなりません。特に医師の場合は、兼務だと、どうしても目の前にいる患者さん(例えばがんの患者さん)が優先になってしまい、リプロダクションは後回しになってしまいますからね。その点においては、専任ということを勝ち取るのが大変でした。

さらに、胚培養士の処遇についても大きな壁がありました。

胚培養士の資格というのは国家資格でないので、雇うとなると事務職になってしまい、給料も安くなってしまいます。そのため、多くの病院では、臨床検査技師として中央検査部から出向していきているという扱いをしているので、他の業務と兼務しています。

専従にするためには、胚培養士の職責を作って給料のシステムを作らなくてはいけません。それがとても大変でした。

ここでは、胚培養士は国家資格の他の技能職と同じ給与体系をとっています。クリニックと比べれば当初は高くないかもしれませんが、総合的に見るとこちらのほうが一生を通じて、最終的には高いのではないでしょうか。

実際に仕組みを作ってみるとわかりますが、クリニックと違い職責を作るということが非常に大変です。大学の中の規則を変えなくてはいけませんからね。その意味をわかってくれる人というのは、結構少ないのですが。

泌尿器科(男性不妊)の待合室です。

●そのほか、リプロダクションセンターを作るにあたって苦労されたことはありますか?

患者さんが少なかった当初は病院全体に合わせて、土曜日は昼まで半日だけ営業し、第三土曜日はお休みしていました。しかし、患者さんが増えてきましたので、第三土曜日や連休もリプロダクションセンターだけは動くようにしています。

これを実現するために、勤務時間をフレックス制にし、代休の取得が容易になるようにしました。それにはやはり、時間がかかりましたね。

病院全体が空いていない時間帯に営業をしていると、会計やセキュリティの問題も出てきます。中でも、セキュリティの問題が一番大きく、どこからでも入られてしまうと困りますので、これを解決するために別棟を建てることにしました。

会計については、クレジットカード決済にして当日は会計せずにそのまま帰ることができますので、会計の事務も必要ありません。

そういうシステムをようやく作り上げてきたので、他ではなかなか真似できないですし、そう簡単にはできないと思います。

婦人科外来の待合室です。

●リプロダクションセンターを作られる際に、こだわったところを教えてください。

こだわって作ったところはラボですね。一番お金がかかっています。それと、TESEを行う手術設備にも力を入れました。

やはり、すぐ横にラボがあるということはとても大事なことです。フレッシュな精子を採れたての卵に入れる、ということがしたいと思っていましたので。

ここでは、従来から行われていた妊孕性の温存や卵子の凍結に加えて、卵巣や精子の凍結についても取り組んでいきます。そういった社会貢献の部分についても、一生懸命やっていきたいですね。

 

●精巣の凍結について、詳しく教えてください。

精巣凍結をして、それを体外培養で精子を作るという実験を行っています。倫理委員会も通りましたので、人についても開始しているところです。

凍結した精巣というのは、体内に戻すことはできません。

卵巣の場合もそうなのですが、例えば、白血病の方の卵巣を戻してしまうと白血病の細胞も戻ってしまうので自家移植は潜在的な危険性が有りできません。卵の場合は自家移植なしで成熟卵を作り出すことはまだできていないのですが、精子は体外で培養できるのです。動物実験では、未熟精巣を凍結保存してこれを融解してから、体外培養し、できた精子を使って子供を作るということころまできています。

そして現在は、ヒトに応用可能な凍結技術および培養技術の改良に入っている段階になります。

予約システムも完備しています。

●リプロダクションセンターの魅力について教えてください。

大きな目的は、若い生殖医療医の育成になります。

臨床については大学病院らしい臨床をしたいですね。他のクリニックでは絶対に診ることができないような患者さん全てに対応できるといったことですね。

しかも、ここでは子供ができる前から出産、そして産んでからも同じところでワンストップで全て行うことができます。NICUも、もうすぐ完成しますしね。

今のところ、お産は月に25件ほどですが、これから周産母子センターができれば体制としてはもっと大きくなるのではないでしょうか。

リプロダクションセンターを作る前に、実は先に遺伝カウンセリングセンターを作りました。実際の治療には携わらない、第三者が客観的に遺伝カウンセリングをすることができるセンターになります。

こちらのNIPT(新型出生前診断)は全国第3位であり、専任の医師もいます。東京都内からも希望する患者さんは数多くいますので、総合力としては追随を許さないと自負しています。

とはいえ、女性の患者さんにおいては若い方も多いので、妊娠率が高いのが特長です。妊娠までの治療周期が2周期程ですから、すごい勢いで卒業していきますね。

 

●リプロダクションセンターは、これからどのように進化していくのでしょうか。

この春から、産婦人科の先生を3人増やして4人体制にしています。私は現在、センター長をしていますが、いずれは後任に譲る予定です。

施設に関しては、もともとリプロダクションセンターとして診療を行っていた場所をARTと男性不妊手術専門のARTステーションへ改装しました。そして、4月からは、女性不妊外来ならびに人工授精を含めた一般の不妊治療、そして男性不妊外来を行う独立した3階建ての建物を建てて、MIRAI ステーションをつくりました。この2つの施設が、おたがいに関連しながら同時に動いている格好になりますね。

いまのところ受付を含めて全部で30人ほどの規模なのですが、胚培養士や看護師、メディカルアシスタントやフロントスタッフを増やして最終的には60人体制にする予定です。

病院病棟から道を隔てての新病棟なので
渡り廊下でつながっています。

●リプロダクションセンターの最終的な目標についてお聞かせください。

これは全体としての考え方なのですが、リプロダクションといってもただ子供ができればいいということではありません。当然、子供ができない方もいらっしゃいます。

そうすると、私たちのところに来て何か特をしたなと感じてもらうには、一生を通じて健康管理がうまくできるようになったなど、そういったことを感じてもらいたいですね。キーワードとしては、リプロダクティブヘルスプロモーション、健康の向上に役立つということをしていきたいと思っています。

例えば、食事指導でもパンフレットをただ渡しただけではダメですよね。食事指導の専門家が出てきて、カウンセリングを行いながらずっとフォローアップしていくというプログラムが必要であり、実際にここでは行われています。自分のところの診療科だけではなく、ここには専門家がいるので、その部門と連携していくということですね。

リプロダクションセンターだけではなく、代謝は内科で、禁煙は呼吸器内科が出てくるといった、他分野の人がリプロダクティブヘルスプロモーションに参加していくという形を取っています。

総合病院としてのメリットを最大限に活かして、患者さんカップルの診療に単科で終わるのではなく、病院全体としてなるべく広く関わっていこうとしているところです。実際にはすでに、多くの診療科の参画するサポートは始まっていますし、これから遠隔診療の技術がここに入ってくると、より利便性が上がっていくことでしょう。

 

●まとめ

非常に貴重で、濃いお話を聞かせていただきました。

リプロダクションセンターを作られるときに傾けられた岡田先生の情熱には、頭が下がるばかりです。そのおかげで、無事に赤ちゃんを授かることができたカップルもたくさんいらっしゃることでしょう。

岡田先生は「男性不妊バイブル」というオフィシャルサイトも開設していらっしゃいます。他では知り得ないような、男性不妊に関しての情報がたくさん詰まっているので、不妊に悩んでいる方にはぜひ読んでいただきたい内容となっています。

岡田先生、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 

<参考サイト>

獨協医科大学越谷病院 リプロダクションセンター
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/repro/

獨協医科大学越谷病院 遺伝カウンセリングセンター
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/gcc/index.html

男性不妊バイブル
http://maleinfertility.jp

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