なぜ膣坐剤が必要とされているのか?
薬には経口剤もあれば、血管から有効成分を取り込む注射剤、皮膚から吸収するパップ剤など実に様々な剤型が存在します。そのうちのひとつ、膣坐剤は婦人科系クリニック以外ではあまり耳にすることのない剤型なのではないでしょうか。
今回は、慣れないと若干の煩わしさが伴う、一見メリットを感じにくいこの剤型の秘密に迫っていきたいと思います。
そもそも膣から挿入する膣坐剤とは、肛門から挿入する肛門坐剤と同じく坐剤に分類される医薬品です。肛門坐剤には、熱を下げる目的で処方される解熱鎮痛消炎剤も含まれるので、子供時代によく目にしていたかもしれません。
膣坐剤もこれとほぼ同じような形をしており、有効成分と賦形剤の一種である基剤を均一に混ぜ合わせて成型した、固形の薬になります。
膣坐剤自体も、その効果が発現する場所によって大きく2種類に分けることができます。
●局所的な効果を期待するもの
膣内で増殖するカンジダ菌やトリコモナス膣炎の治療などに使われます。
フロリード膣坐剤やフラジール膣錠などの膣坐剤が販売されています。
●全身作用を期待するもの
不妊治療に欠かせない、プロゲステロンを含有した黄体ホルモン製剤に使われています。代表的な薬剤が近年発売されたルナティス膣錠です。
前者は、作用させたい箇所に直接触れさせるわけですから、より効果的であることは容易に想像がつきます。しかし、後者のほうは、なぜわざわざ膣から挿入する手間をかける必要があるのでしょうか。
それは、プロゲステロンの特徴が大きく関係しています。
薬は通常、経口投与すると腸から吸収されて肝臓へ運ばれます。天然のプロゲステロンは肝臓での分解や代謝を非常に受けやすいため、経口投与では効果を発揮するのに十分な量を維持することができなくなるのです。
そのため、黄体補充の必要性がある場合は注射剤で取り入れるか、化学合成されたプロゲステロン製剤に切り替えていました。しかし、注射剤では痛みを伴い、頻繁な通院が必要となります。また、天然型のプロゲステロンと比較すると、どうしても合成型は安全性への懸念がつきまとっていました。
そこで、膣坐剤という選択肢が浮かび上がってきます。特に、ルナティス膣錠は膣座薬というだけではなく、天然型であるという点も付加価値を高めています。
膣坐剤にはこの他、次のようなメリットが存在します。
・ 肝臓での代謝を受けにくく、効果発現に要する十分量を確保できる
・ 急速な代謝を防げるので、ショック症状を防ぐことができる
・ 吐き気や嘔吐がある場合でも、投薬に影響を与えない
・ 自身で投与可能
・ 雑味や匂いが気にならない
・ 迅速な効果が期待できる
・ 胃腸が荒れにくい
また、どの剤型でもそうですが、良い点ばかりではありません。
膣坐剤のデメリットも挙げておきます。
・ 挿入に慣れが必要
・ 挿入後におりものが出る場合があるので、おりものシートが必須
・ 価格が高く、1日に何度も挿入する必要が生じるためトータルコストがかかる
上述したようなデメリットは存在しますが、これらの点を加味しても膣坐剤は非常に使いやすく、不妊治療の敷居を低くしてくれる薬だといえるのではないでしょうか。
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